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2018年11月28日 ダウンロード販売開始(1,980円)
※CD販売はいたしません。
DL達成企画
◆300ダウンロード達成で
キャストコメント公開決定(公開中)
◆1000ダウンロード達成で
発売記念SSのドラマ化(同梱済み)
300DL達成記念
【キャストコメント/清水蒼生CV佐和真中】
【Q1】蒼生を演じる上で印象深かったところ、気をつけたところがあればお教えください
彼のソーシャリティとメンタリティを加味した聴こえ方に違和感が出ないように気をつけました。
精神が摩耗して地に足がつかない状態と軽やかで余裕がありそうな感じが聴いていて似通うようにと言った所でしょうか。
【Q2】もし蒼生の力を手に入れたら、佐和様はどのように使われますか?
明晰夢に近い感覚で一定の時間を繰り返せるのですから、1度収録した自分の音声をまるっと聞き返して聴こえ方を確認して、実際の収録に反映したいです。
あ、あと、休息を三回まで繰り返してめちゃリフレッシュしたいかもしれません。
【Q3】蒼生に共感をおぼえた部分はありますか?
何度繰り返しても上手くいかないのはつらいですよね。
堅い壁をずっと押していたり、ルームランナーでいつまでもいつまでも走らされたりするような感じは心も摩耗するわけです。
反して、そんな中で予想以上の反応や感想を頂けた時は恐縮ながらも嬉しかったりするものです。
【Q4】これから蒼生とヒロインは幸せになっていくと思いますか?
どうでしょう。怖いですね。完璧主義で潔癖症のままでは遅からず破綻しそうです。
蒼生の能力に精神性の強弱や剛柔が関連しているのでしたら、自分の一日をのんびり眺めて笑って受け入れて過ごせるようになってくれたら、幸せになれそうな気がします。
【Q5】リスナーの皆様にメッセージをお願いいたします
不思議な力を持った青年が、壊してしまうほど強くヒロインを愛するドラマです。
彼の力を目の当たりにした時、あなたが何を望むのか。
有り得ない現象から本質を知る、そんな作品だと思います。皆さんよろしくお願いします。
発売記念SS
【ご注意】
※18歳以上推奨
※本編開始前の、ある日の出来事です
※本編のネタバレ要素を含みます
「罪の腐臭」 作・雪華
「もう、蒼生は心配しすぎだよ。こう見えても私、いざとなったら強いんだから」
陽が落ちた後の閑静な住宅街に、少し拗ねた声が響く。
横を歩く彼女が不格好なフォームでパンチを繰りだせば、街灯で作られた影が真似をするように動いた。
それを横目で見ていた清水蒼生は、苦笑して首を振った。
「でも最近は、この辺で痴漢が出たって話があるし」
なんて言いながら、ひっそりと痴漢に感謝する。痴漢というクズが出没していなければ、こうして彼女を自宅まで送る理由は作れなかったのだから。
蒼生が片想いし続けている彼女は、英世学園の一つ上の先輩だ。年上なんだからと頑張っている様子が見られるのだが、しかし彼女の気あいは……今のところ空振り三振といったところだ。何もないところで突然転倒しそうになったり、蒼生のセクハラまがいの接触にも気づかなかったりと、むしろ弱さを披露している。もっとも、それは蒼生に心を許しているからだろう。彼女は一度気を許した相手に、無自覚に甘くなる。
(だからこそ、逆に辛いんだけどね。心を許してもらえている感じはあるのに『好き』の一言だけがもらえない)
今にも屋上から飛びおりそうな彼女と蒼生が出会って、もう一年以上。その間、蒼生は彼女にアプローチし続けた。毎日、毎日、気が遠くなるほどの回数を……。それなのに、未だにあと一歩が踏みこめない。
(好きになってきてくれている気はするのに……)
よく言えば意思が強い、ネガティブに言い換えれば頑固な彼女は、蒼生を「異性として好き」とは決して言わなかった。元彼との「生涯愛する」という誓いがあるからだ。
蒼生からすれば、相手の元彼はもうとっくに婚約者とヨロシクやっているのだから、彼女も早々に切りかえればいいのに、と思ってしまう。けれど、そんな愛情深さに惹かれたといっても過言ではないから、なんとも複雑な気分だった。
「あ、あの花、やっと蕾ができたんだね」
「花?」
彼女の視線の先を探し、道路脇の公園の花壇を見つける。
微風で波打つ草花は、確かに色とりどりの蕾を冠して揺れていた。
彼女はその花が咲くのを、楽しみに待っているらしい。
(そういえば、昨日はここまで送ったんだったっけ)
花のことなど、今の今まで頭から抜けていた。些細なことだから、忘れてもおかしくはないのだが、蒼生は過剰な危機感をおぼえ、背筋に汗をたらした。
(まずいな。こんな大事なことを忘れてるなんて)
彼女の発言は全て重要なことなのだ。聞き逃したり、忘れたりすれば、後の判断材料が減ってしまう。それは今の蒼生にとって、命とりともいえることだった。
大げさな話ではなく、本当に。
「蒼生?」
密かに冷や汗をかいている蒼生を、彼女が見あげる。
蒼生は硬くなりかけた頬の筋肉を強引に動かし、微笑みで応えた。
「早く咲いたところも見たいですね」
「そうだね」
少し強めの風が、ざあっと吹き抜ける。
反射で目を閉じた蒼生は、次の瞬間にふと気がついた。
「先輩、睫がついてますよ。今の風のせいかな」
「え、どこ?」
「右目の下」
彼女が自分の目の下を擦る。しかしそのせいで、逆に取り難い位置に睫が移動してしまった。
「とれた?」
「あ、もうちょっと上」
「ここ?」
「えっと、少し横」
「うーん……」
しばらく奮闘した彼女だったが、最後には諦めて肩を落とした。
「ごめん、とってもらってもいいかな」
「はは、わかりました」
応えると、彼女は躊躇なく目を閉じた。しかも蒼生がとりやすいように、やや上に顔を向ける。
(……なんか、まるでキスを待っているみたいだな)
そんなわけはない。彼女の今までの頑固さから考えて、こんなにいきなりチャンスが巡ってくるわけがないのだ。
それでも蒼生は、一縷の望みに縋ってしまった。気が遠くなるほど、ありとあらゆる手を尽くしたのだから、もしかしたらこんなふうに思いがけず転機が訪れるのかもしれない、と。
一度そう思うと、もう彼女の顔がキスをねだっているようにしか見えなくなる。頭の奥では警鐘が鳴っているのに、それに耳を傾けることができなくなっていた。
指先が、軽く頬に触れた。
痛いほどに高鳴る心臓。
浅く速くなる呼吸。
異常に乾いた喉。
頭の中の警鐘は、段々と天使と悪魔の声になっていった。
――まだだ、用心深くなれ、清水蒼生。なんのために千回以上我慢してきたと思っているんだ。
――やってしまえ、清水蒼生。これだけ頑張ってきたんだから、キスくらい許される。
そうしてグラグラと揺れていた心が、ふわりと漂ってきた彼女の甘い匂いで、とどめを刺される。
まるで繰られたように蒼生は背をかがめ……気がついたら、ちゅ、と軽くキスをしていた。
柔らかな感触が、泣きたくなるくらい気持ち良かった。
「好きだよ、先輩」
「……え?」
至近距離にある彼女の目が、呆然とした感じで開かれる。
吐息がかかるほど近くに蒼生の顔があるとわかると、彼女は動揺しきった様子で一歩後退した。それはもう、手負いの獣が逃げるような素早さで。
「あ……」
突然水を被った気分で、頭が冷えた。
やばい。間違った。やり直したい。――焦って手を伸ばした蒼生だったが、音を立てて弾かれる。
「っ」
じん、と手が痺れる。実際の痛みではなく、彼女に拒絶されたという事実に、顔を歪めてしまった。
「あっ、ご、ごめんなさい。お……驚いちゃって……」
「いえ、俺のほうこそ――」
距離をつめようとした蒼生は、彼女の頬を伝う涙にギクリとした。
些細な、けれど決定的なミスをしてしまったのだと、光る雫が物語っていた。
「ご、ごめんなさい! 俺……!」
今度こそ彼女を掴もうとした蒼生だったが、その前に彼女が走りだしてしまった。
「っ、ごめん!」
互いに謝っているのに、向いている方向は、体も心も逆だ。
彼女の背はどんどん遠くなり、ついには蒼生のほうを一回も見ないまま、角を曲がっていってしまった。
「どうして……」
誰もいない夜道で、手を伸ばした格好のまま、動けなかった。たぶん、頭が真っ白になったというやつだ。
「なんで……」
数十秒も茫然としていた蒼生の指先が、徐々に震え始める。
はあ、はあ、という荒い呼吸音が、酷い耳鳴りと一緒に聞こえた。
「こんなに、うまくいかない……」
そう喋っている声も、どこか遠くから聞こえてくるようだった。
五感全てが自分のものではないように感じるのに、何を願っているのかだけは、はっきりと感じて……。
「先輩、先輩、先輩、先輩、先輩……ああ、先輩。俺、こんなに、待ったじゃないか。先輩の気持ちがほしかったから、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も――」
ぶつぶつ呟きながら、ゆらりと歩き始める。何も考えられないほど絶望しているはずなのに、蒼生は妙にスムーズな動作で鞄を探り、中から一本の鍵をとりだした。
「鍵、作っておいて良かったぁ」
夢を見ている気分だった。喋っているのも、動いているのも蒼生だが――蒼生自身には自分のことだという認識が薄い。それなのに、冷静に物事を判断している。
今握っている鍵だって、いつ作られたものなのか正確に思いだせないのに、蒼生は知っているのだ。――これが彼女の家の合鍵だと。
行ったことがないはずのマンションにも、あっさり着いた。他の住人の後ろについて、さりげなくエントランスを通過し、迷いなくエレベーターのボタンを押す。なぜか子守歌の鼻歌を歌いながら、点滅する階数のボタンをぼんやり見つめた。
チーンという電子音が鳴り、慣れた自宅に戻るような足どりで、一つの扉の前に立つ。
排気口から漂ってくる甘い匂いは、たぶん彼女が使っているボディソープの匂いだろう。
彼女が入浴中だと判断した蒼生は、これまた慣れた手つきで鍵を押しこみ、ゆっくりと玄関扉を開けた。そのまま勝手知ったる調子で廊下を進み、可愛らしい札がかかった扉を開ける。
匂いからも、置かれた写真からも、彼女の自室だとわかった。
蒼生は無言で部屋を横切り、まずベッドの下に自分の鞄を入れた。その後、自分自身も無言でベッドの下にもぐりこむ。
それから三十分ほど後に、湯あがりの彼女が部屋に入ってきた。
悲しげな声と溜息が、蒼生の耳に届く。
「明日、どうしよう……」
彼女はそう呟きながら近づいてきて、ぼふりと音を立ててベッドに倒れこんだ。もう起きあがる気力がないのか、ベッドサイドに置いてあったリモコンで電気を消してからは、全く動かなくなった。
……それから一時間ほど経過した頃だろうか、色々悩んでいたらしい彼女が、やっと眠りに落ちた。
健やかな寝息が聞こえてくるのを確認した蒼生は、そっとベッドの下から這いだす。
「………………」
十分ほど彼女の寝顔を眺めた後、蒼生は手に持っていたビニールテープを慎重に伸ばし……、それで彼女の口を覆った。
「ん……、んん!? んんんっ!?」
さすがに目を覚ました彼女が、パニックになって暴れだす。
馬乗りになった蒼生は、容易にそれを押さえこみ、彼女の両手首もテープでぐるぐる巻きにする。
強盗か何か――とにかく犯罪者が侵入してきたと思っている彼女は、必死に身を捩って抵抗した。だが、どうあっても女の力では逃げられないと悟り、恐怖の涙を流し始める。
蒼生はその濡れた頬を、愛おしそうに撫でて……ようやく声を発した。
「安心して、先輩。俺だよ。蒼生だよ」
優しげな声を聞いて、一瞬だけ彼女の体から力が抜ける。しかしすぐに、この奇妙な状況に恐怖を感じたのか、小刻みに震えだした。
「んん! んんんっ?」
「ねえ、先輩。俺、こんなに待ったの初めてなんだ。だからそろそろ……、いいと思うんだ」
「……?」
何がと言わないまま、勢いよく寝間着の前を開く。
弾け飛んだボタンが、どこかに転がっていった。
「んんーっ!?」
「はい、腰、少しあげて」
当然ながら、大人しく言うことは聞いてくれない。抵抗は激しくなるばかりだ。
蒼生はそんな彼女を片手で押さえつつ、やれやれと首を振った。まるでワガママな子供を窘めるように。
「仕方ないなぁ」
何も仕方なくはないのだが、今の空間にそれを言えるものはいない。
蒼生は素早く自分のズボンを下ろすと、ばたつく脚を抱えあげ、彼女の寝間着のズボンも脱がそうとした。けれど抵抗が激しすぎて、途中で面倒になる。
「じゃ、このままでいいや」
彼女は膝までズボンと下着を脱がされた、中途半端な状態で体を折り曲げられる。全部脱がされなかったせいで、余計に動き難くなっている。
ひやりとした空気が彼女のむきだしの陰部を撫でた。
「っ!? ……っ!?」
何をされようとしてるのか予想はできたが、さっきまで仲良くしていた後輩に犯されそうになっていなんて、どうしても思えず……彼女はますます恐慌状態に陥った。
滑らかだった肌に、ぶわりと鳥肌が立つ。
彼女はまさしく必死の形相で暴れたのだが、その抵抗空しく――
「よっと」
蒼生は、軽く座るような声で調子をつけ……彼女の膣口に、硬いペニスを押しこんだ。ベッドの下にいた時から、既に勃起していたのだ。
「んぐぅ……っ!? んんんんっ!!」
「あっ、はぁ……先輩の中今日も気持ちいー……。はは、でも慣らしてないと、お互いにちょっと痛いよね。まあこの痛いのも、けっこう好きなんだけど。だってさ、まるで処女の先輩を犯してるみたいでしょ? 元彼にとられちゃったものを、俺がもらえたみたいな気持ちになる」
勝手極まりない感動に酔い痴れ、蒼生は激しく腰を動かし始める。
突然犯された中は恐怖心で狭まり、太いペニスが出入りする度、痛々しく痙攣していた。
だというのに、蒼生の硬い先端は容赦なく子宮口を抉る。
未だかつてないほど深いところをせめられ、彼女はガクガクと全身を震わせた。
「はっ、あぁ、ここ……元彼じゃ届かなかったんでしょ? 知ってるよ。そう言ってたもんね」
「んっ、んぐっ、ん……ぅ?」
「あっ、はは、お待たせ、先輩。今すぐに濡らしてあげる。そうすれば痛くなくなるからね」
彼女にとっては意味のわからないことを言いながら、蒼生が僅かに息をつめる。反して腰の動きは激しさを増し、小刻みに最奥をこすりあげた。
ぎし、ぎし、とベッドの軋む音が大きくなる。
悪夢のそのものの数秒間を耐えていた彼女は、蒼生の一言を聞いて目を見開いた。
「あっ、あー……いくっ、奥までぐちょぐちょに濡らしてあげるからね、先輩」
「んんっ!? んんんっ!」
彼女が真っ青になって首を打ち振る。
それを愛おしそうに眺めた蒼生は、快感にとろけた声を出しながら……ぶるりと全身を震わせた。
「くっ、あっ……! ああっ、イクッ、イクッ! 先輩の中ぁ、俺の精子で、いっぱい、に……っ!」
最後に、パン、と腰を叩きつけ、子宮口を押し広げながら射精した。
ずっと我慢していたせいか、ペニスは蒼生自身も驚くほど精子を吐きだし、何度も跳ねた。
「はっ、はあ、はあ、はあ、はは、すごい……まだ出てるよ、先輩。こんなに出されたら、妊娠しちゃうかもね」
「ぅっ、……うぅ、ふ……ぅっ」
ねっとりと耳を舐めると、彼女が肩を震わせながら泣きだした。
その肩を優しくさすりながら、蒼生は段々と腰の動きを大きくしていく。
「っ……?」
これ以上の悪夢があるとは思っていなかったらしく、彼女の泣き濡れた目が、不思議そうに蒼生を見あげる。
蒼生はにっこりと微笑み、彼女の脚を抱え直すと、ぐっと腰を押しつけた。
「んぐぅっ!?」
「あー、よく濡れてるよ。ぐちゅぐちゅだ。こんなに気持ちいいと、また硬くなるのは当然だよね」
一度放っても硬いままだったペニスは、ねっとりとした中で擦られたことで、よりいっそう大きくなる。
「んっ、聞こえるかな、先輩。先輩のここ、ぐちゅん、ぐちゅんって、すっごい音を立ててる。はは、俺、けっこう出したんだなぁ」
「っ……ぅ……ぐ」
もはや絶望して、ぐったりとする彼女。目からは光が消え、ただ涙を流すだけになっていた。
「あれ? もういいの? 抵抗しないと、また中に出されちゃうよ? まあ抵抗しても出しちゃうけど。はは」
力が抜けた彼女を激しく揺さぶる。
擦られ続けた中は、彼女の意思とは関係なく、蒼生のものにまとわりついた。
「あぁ、すご……っ、はぁ、やばい、きもちいい」
吐精を促すような動きに思考がとろける。
さっき放ったばかりだというのに、また蒼生の背筋にぞくりとした感覚が走った。
「んっ、あぁ、先輩の中、よすぎて……はぁ、またイッちゃうよ。ふふ、ははは、二回も出したら、はぁ、はぁ、ほんとに……子供できちゃうね。……最高だよ」
テープ越しにキスをしたが、物足りなくて耳を激しく舐めた。唇をあわせているつもりで、愛情をこめて舌を這わせる。
すると徐々に、彼女の中が今までとは違う動きをし始めた。ポルチオをこすると、きゅっと入り口が締まり、奥が広がってくる。
「ふふ、先輩……レイプされてるのに、感じちゃったの? この、奥を……はぁ、こすられるの、好きだもんね。中、キュンキュンしてるよ」
「んんっ」
彼女が号泣しながら首を振る。それでも中は、蒼生がいった通りにのぼりつめ、今にも達しそうになっていた。
その反応を、蒼生は硬くなった先端で感じとる。
「はは、イッちゃう? イッちゃうの? あぁ、先輩。可愛いよ。可愛い、可愛い、かわ……いいっ!」
彼女がびくりとしたタイミングを見計らい、一際強く腰を打ちつける。
瞬間、ぎゅうっと痛いくらいにペニスが絞られ、蒼生は息を詰まらせた。
堪えきれず、さっき以上の勢いで精子がふきだす。
「あっ、あ……あぁ……」
彼女を力いっぱい『繋ぎとめ』ながら、一滴残らず注ぎこんだ。
いっそうぬかるんだ中の感触が、蒼生をたまらなく幸せな気分にさせた。
けれど……
「……? 先輩? どうしたの、先輩。なんで……」
違和感に体を起こす。
気づけば彼女は、泣かないどころか――
「なんで息……しない、の?」
彼女は目を瞠ったまま、動かなかった。
ひやりとした感覚が足下から這い登ってくる。
「あ……れ?」
彼女を揺すろうとして、はたと我に返る。――蒼生は、なぜか彼女の首を絞めていた。しかも指が食いこむほど強く。
「な、なんで……」
ずっと薄らいでいた現実感が、ようやく戻ってくる。「なぜ」という問いかけの内容はどんどん変化していった。
――なぜ彼女を殺してしまったんだろう。
――なぜ彼女を犯してしまったんだろう。
――なぜ彼女に酷いことをしようと思ったんだろう。
――いやそもそも、なぜここの鍵を持っているんだ……?
「なんで、俺……」
ガクガクと震えながら体を離した蒼生は、すっかり魂が抜けた彼女の顔を見つめ、頭をかきむしった。
「ちがう……違う! 違うよ! 俺、こんなことがしたかったんじゃない! せ、先輩のこと、俺のところに『繋ぎとめたい』って思ったけど、それは殺したいとか、そういうのじゃ……!」
動揺のあまりベッドから滑り落ちる。
ガツンと鈍い音がした。
鈍い痛みをこめかみにおぼえる。
何かの角に頭をぶつけたらしく、生ぬるい液体が、頬を伝って顎から落ちた。
「っ、はあ、はあ、先輩……せんぱ、い……」
けれど今は、そんなことどうでも良かった。
テープをはがし、必死で蘇生措置を行った。
……それでも、どうにもならなかった。
すぐさま学園の副生徒会長である御堂令に電話をかけたが、彼女を助けてもらえるかどうかは……確信がもてない。
いくら令が優しくても、力を行使するのは生徒会長のほうなのだから。
救急車を呼ぶという手もあるが、彼らでは救えないのは、見て明らかだ。
無意味に過ぎていく時間の中、蒼生は信じられない気持ちで呟いた。
「俺が……、犯して、殺した……」
ぐわん、と頭の奥で不協和音が鳴り響く。
おかしな話なのだが、蒼生は自分で殺しておきながら、彼女と話せなくなってしまったことが悲しかった。たぶん、自分が死ぬよりも悲しいことだった。
「……ごめんなさい……、俺、貴女を愛してたんです……」
ほとんどしゃくりあげるようにして、冷たくなり始めた彼女の手を握りしめる。絞り出した声は、みっともなく掠れていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……、本当に……ごめんなさい」
謝罪しながら、ポケットに入っていたカッターをとりだす。
これも何故ポケットにあったのかわからないが「とりあえず早く死のう」と思った。
彼女のいないこの世界にいたくない。
幻聴だろうが、カッターの刃が首の血管を断ちきる、ぶちりという音を聞いた気がした。
――本日最後の、チャンスが終わった。
「っ……!」
次に見えたのは、目をつむった彼女の顔だった。頬はほのかに赤く、ついさっきまで青ざめていたのが嘘のようで……。
(あぁ、そうか……。あれが、今日最後の……)
動揺を必死におさえて視界の端を確認する。
月光を受けて静かに揺れる花の蕾は、数時間前のままだった。
震えそうになる指先で、なんとか睫をとり、唾を飲む。
「……とれましたよ、睫」
「ありがとう。……あれ? どうしたの、蒼生。なんだか顔が青いよ」
「あはは。『あお』なだけに」
「蒼生って、たまにオジサンみたいなギャグいうよね」
「困ったな。繰り返しすぎて、最近は自分の精神年齢がよくわからないんだ」
「繰り返すって、何を?」
「脳内シミュレーション」
彼女は不思議そうに少し首を傾げ、いつものことかと笑った。蒼生がたまに不可解なことを呟くのは、天才ゆえの感性だと思っているのだ。しかもそんなところを「可愛い」とまで言っている。
しかし実際のところ、蒼生の能力は可愛さのカケラもない。使い方によっては、凶悪な武器になる。
(先輩がこれを知ったら、俺を恐いと思うのかな)
昔はなんとも思わなかったが、今は普通の人間との差を寂しいと感じる。本当は愛しい彼女と、この秘密を共有したい。
だが、無理なのだ。秘密を知っていいのは、同じ類の人間か、研究者か……もしくは、伴侶だけだから。
(ああ、早く、先輩が俺のお嫁さんになってくれたらな)
結婚できたら、もう二度と今日のような暴走は起きないだろう。
「じゃあ先輩、また明日」
「うん、また明日」
最後まで送らせてくれないことに少しの寂しさを感じながらも、明るく笑って手を振る。
彼女が曲がり角の向こうに消えた後、激しい疲労感が蒼生を襲った。
「今日は……疲れたな。いや、最近は……ずっとか」
ベンチが目に入り、額を押さえながら、ふらふらとした足どりで公園に入る。全身が泥のように重かったから、ひとまず座りたかったのだ。
そうして、あともう少しでベンチに辿りつく――というところになって、ポケットの中で着信音が鳴り響いた。無視しようかとも思ったが、コール音は意外にも鳴り止まない。
蒼生は長い溜息をついて携帯の画面を確認した。そこに表示された名前を見て、僅かばかりホッとしたような気持ちになったのは……少し悔しいから内緒にしておこうと思った。
通話ボタンを押し、明るい声を出す。
「……どうした、命。お前のほうからかけてくるなんて珍しいな」
電話の相手は、蒼生の弟の柊命だった。両親が離婚しているから名字は違うが、同じ学園に通っているのもあり、今でもそこそこ仲が良い。昔は悪い意味での遊びを一緒にしていたくらいだ。だから兄弟というよりは、悪友の雰囲気に近い。そのノリで、蒼生はいつも通りの軽口を言った。
「ついに誰か妊娠させちゃったとか?」
しかし返ってきたのは、予想外の気遣わしげな声だった。
「ねえ、兄さん。今どこにいるの? 大丈夫?」
「大丈夫って、何が?」
「御堂さんに聞いたんだ。兄さんは能力の使いすぎで、脳がヤバくなってきてるって」
「はは、ヤバイって、何が」
「茶化さないで。精神面の話だよ」
「それこそヤバくなりようがない。俺のアビリティが何か、知ってるだろ?」
「……」
「命?」
「僕さ、実は前から心配してたんだ。昔から兄さんは完璧主義者なところがあったけど、この一年は……異常だった。全ての日が完璧じゃないと安心できないみたいな、そんな焦燥感めいたものを感じて……」
「俺が焦る? そんなのあるわけないじゃないか」
能力のせいか、蒼生には常に余裕を装う悪癖がある。要はカッコをつけていたいのだ。
それを長いつきあいでわかっている命は、蒼生が今危険な状態にいるんじゃないかと、不安を感じているようだった。
「本当に?」
「信用できないなら、お前の能力を使ってみたらどうだ?」
「兄さんに、そんなことしたくない」
「じゃ、信用してくれ。っていうか命こそ、ちゃんとした学園生活送れよ。これ、お兄ちゃん命令」
「だって真面目に授業受けなくたって、勉強なんかできるし」
「そういう問題じゃないって、命もわかってるだろ。生徒会長に消されるぞ」
「はいはい、わかりました。それじゃあ、兄さん……本当に、無理しないで」
「ああ。おやすみ」
通話を切った後、心なしか肩の力が抜けたように感じた。
ほっとしたら、何か温かいものでも飲みたい気分になって、自販機のほうに歩いていった。
「えーっと、あれ? 財布、どこしまったっけ……」
いつもしまっている場所に、財布がない。蒼生にしては珍しいことだ。
さっき「焦らない」と言ったばかりでカッコ悪いが、少しばかり焦ってポケットを探る。
すると、何か硬いものが滑り落ちてしまった。ちゃり、という音からして、金属製だ。けれど入れた憶えがない。
変だなと思いながらしゃがんだ蒼生は、その金属の正体を知って……ゾッとした。
「鍵……」
どく、どく、と心臓が激しい鼓動を打つ。
息をつめて拾いあげ、掌に乗せたそれを、まじまじと見つめた。
「……先輩の家の、鍵?」
呟いてから、なぜこれが「先輩の家の鍵」だとわかったのか、不思議になった。預かった記憶もなければ、恋人同士のように合鍵を作る仲でもない。
(そう、現実では、作っていないはずなんだ)
ちらりと頭を掠めたのは、以前のことだ。その日もやっきになって繰り返している内に、頭が痛くなって……仮想の中で、合鍵を作ってしまった。
だが現実に戻った後で、蒼生は後悔した。自分はこんなストーカーみたいな真似をする人間ではなかったはずだと、自分の行いを恥じた。そして仮想で良かったと、あれはほんの一瞬の油断が生んだ妄想だったのだと、思っていたのだが……。
(想像で作ったんじゃなかったのか? これが現実だとしたら、一体……どこからどこまでが、仮想だったんだ……?)
ごくりと喉が鳴り、その音で、はっとする。
これでは、自分の能力を管理できていないみたいじゃないかと苦笑した。
……みたいではなく、既にその兆候が出ていることを、蒼生は認めたくなかった。
「違う、こんなの俺じゃない。俺は先輩を幸せにしたいだけ。愛してるだけ。こんなの……本心じゃないっ」
衝動的に拳を振りおろしたら、花壇の土を抉ってしまった。こんな行動も、蒼生らしくない。
考えれば考えるほど、危機感が募ってくる。
なんだか鍵を持っているだけで狂気に侵されていくようで、蒼生は窪んだところに鍵を埋めこんだ。しっかり土をかぶせた上で、さらに踏みかためた。
「……もう帰ろう」
きっと疲れているだけだ。明日目が覚めたら、正常な自分に戻っている。――そう祈りながら、早足で家に帰った。
それから数日後の二人で公園の前を通った時、彼女がふと気づいた様子で足を止めた。
「あ、見てよ、蒼生。ついに咲いたよ」
「え」
数日前はかたい蕾だったのに、もう花を咲かせていた。夕陽を受けると、赤に近い橙色は、もっと鮮やかになって……。
「綺麗な赤だね」
「……」
「蒼生?」
蒼生は頷いたが、正直なところ……血を連想させるその色に、悪寒が走った。
まるで自分の罪を吸って、呪われてしまったようだと思った。
「いい香りがするね」
「……ええ」
爽やかな香りに渋面を作りそうになる。
腐った狂気の臭いがした。
<了>