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闇の中からアナタを見つめる。

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※ヒロインが凍時の子供を産んだ後のお話です。苦手な方はご注意ください。




『妻の口癖』 作・雪華


 休日の真昼間、西条凍時はまろびを帯びた白い臀部を撫でまわす。腰を打ち付ける度にそれの形がたわむ様は、酷く淫靡で眩暈がした。縋るように伸ばした手が桃色のエプロンを掴む。
 レースの緻密な模様にまでこだわった一級品は手触りがいい。凍時の愛しい妻が料理をするために買ったものだが、今では彼の欲情を煽る一材料になってしまっていた。
「あっ、あっ……もう、料理中は駄目だって、いったのに」
「んっ、ごめん、わかってるんだ。わかってるんだけど……はぁ、君が可愛すぎるから、どうしても入れたくなっちゃったんだ。あぁ、俺が贈ったエプロンをつけながら料理をする君は、なんでそんなに魅力的なんだろうね。この世の愛らしさを全て集めたように……、はぁ、あぁ、俺の欲望を煽るんだ」
 言い訳にもならない反論をしながら腰を振り続ける。ぱん、と肉と肉のぶつかりあう音がリズミカルで小気味いい。突き入れれば、先ほど出したばかりのものが、ぐちゅりと音を立てて溢れ出てきた。
「ああ、もったいない。また押しこまないと、ねっ」
 溢れたものを硬い先端ですくい、また押しこむ。
 ぐちゃぐちゃになった中はとろけきっているのに、肉棒を啜るように飲みこみ、きつく締めつけてくる。子供を産んでも、依然彼女の中は凍時を夢中にさせる。
 激しい愉悦によだれが出そうになり、垂らす前に喉を鳴らして飲みこんだ。下腹に血が集まり、射精感が高まる。
「仕方のない人。もう出したいの?」
 いつの頃からか「仕方のない人」が彼女の口癖になった。
 仕方のないことをしている自覚はまあまああるから、凍時はただただ詫びるしかない。
「はぁ、はぁ、うぅ、ごめん、ごめんねぇ。でもまたすぐに復活するから、何回でも君をいかせられるよっ」
「あんっ、はぁ……そういうことじゃな――、んっ」
 終わりに向けてやや乱暴に出し入れを繰り返す。抉るように腰を突きだしてポルチオを押しつぶした。
 柔らかな臀部がびくりと跳ねて、膣壁がぎゅうぎゅうと締めつけてくる。
 彼女が声を押し殺して達したのを確認した後、追い打ちをかけるように子宮口を擦りながら、凍時もまた達した。
「あぁ、出てる……出てるよ……。すっごく濃いのが、出てる気がする……」
 凍時はぶるぶると震えながら最後の一滴まで子宮口に注ぐ。全て出し終わると、名残惜しい気持ちでまだ硬いものを引き抜いた。
 こぷりと溢れてきた白濁の液が彼女の腿を伝う。
 今日も愛しい人を犯せた喜びで頬が緩んだ。しかし、
「……凍時さん、中に出すのは止めてくださいと、言いましたよね」
 呼吸が整ってくると、挿入前の彼女の制止の声が脳裏を掠める。
 彼女からしてみれば、料理をしている最中にいきなり夫が盛って無理矢理突っこんできたのだから、さぞかし怒っていることだろう……と、凍時は若干反省する。
 ここで「タイミングがいけなかったのかな」とズレたことを思うのが、凍時の悪いところだった。
「俺の女神、どうか怒らないで。次からは料理が終わるまで待ってるよ」
「そんな寒い宥め方ができるのは貴方だけね」
「え、寒かったかな。毛布を持ってこさせようか」
「……宇宙人と話している気分だわ」
「ははっ、たしかに俺の愛は宇宙規模だよ!」
 彼女が眉間を揉みながら深々とした溜息をつく。しばらくすると、最近では見慣れた悟り顔で凍時の胸を押しやった。
 料理の邪魔だという意味かと思った凍時が素直に一歩下がる。
 すると彼女は、舞うようなしなやかな動きで包丁を手に取り、自分の首に宛がった。
「なっ、何をしているんだい!? 危ないから、こっちに包丁を渡しなさい!」
 気が動転して近寄ろうとすると、彼女は僅かに刃を滑らせた。薄皮が切れて、つうっと鮮血が伝う。
 凍時はガクガクと震えながら膝をつき、神に祈るように両手を握りあわせた。滑稽な姿だが、彼女の命が第一優先な凍時にとっては、夫の威厳などどうでもよかった。「久しぶりに料理がしたいの」という可愛いおねだりに、負けるべきではなかったのだと猛省した。
 彼女の狙いは、きっとこれだったのだ。
「刺すなら俺にして!」
 本心からの叫び声をあげると、彼女は慈愛すら感じさせる微笑を浮かべて言った。
「私、言いましたよね」
「な、なにを……」
「光が死ぬまで、私を妊娠させようとしないでと。今日はたまたま安全日だから良かったですけど、危険日に同じことをしたら……」
 彼女がまた包丁を動かす素振りをして、凍時はみっともなくうろたえる。
 不穏な気配を察したのか、光――凍時とその妻の子が、わっと泣き始めた。
「ご、ごめん! ごめんなさい!」
「そうやって謝って、貴方はまた欲望に負けてしまう。そもそも、貴方は大きな勘違いをしているんです」
「勘違い?」
「ええ。子が増えれば増えるほど私が身動きが取れなくなるなんて、おかしな話。私にとっては、一人だろうと二人だろうと関係ない。大切な我が子が一人でもいる限り、私はその子を不幸にする行動はしません。……こうやって、貴方が約束を破らない限りは」
「で、でもさ、やっぱり兄弟は必要だと……」
「光に万が一のことがあった場合、代わりがいると思われたくない。貴方はきっと、他に子供がいれば、ぎりぎりのところで光を切り捨てる」
「そんなことない! 俺だってあの子を心から愛してるよ!」
「けれど、たぶん世間一般の父親の愛からはズレている。貴方が注ぐ歪な愛など、どうやって信用しろと言うの」
「わ……わかった! 今度避妊しなかったら針千本飲ませていいから! だから……死なないでくれっ」
「針千本……?」
 凍時のほうが今にも死にそうな形相で叫んだ時、彼女は一瞬「なにを言っているんだコイツは」という顔をして、徐々に肩から力を抜いていった。それから、困ったように笑う。
「本当に針千本、その口に突き刺しますよ」
「ああ。千本でも一万本でも入れてくれ。最高の医療チームを待機させておく」
「はぁ……千本刺されても生きるつもりでいるところが、貴方らしい。憎まれっ子世に憚るとは、貴方のことだわ」
 ようやく包丁がまな板の上に置かれて、凍時は泣きじゃくりながら彼女を抱きしめる。
「愛してるよ!」
「私は愛してませんけど」
「そうだね。今はちゃんと、知ってるよ」
「……少しは進歩したんですね」
「これからも成長するよ。君に愛されたくて必死なんだ」

 その後の彼女の口癖は、なぜか少し切なそうに聞こえた。

<了>