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※「監禁婚~絶望の日々~」より後の、ヒロイン視点のお話。
以前アンケートで一位をとった「凍時が、ヒロインが憧れていた人の前で犯す」内容です。




『冷たい脚』 作・雪華


「君の初恋はいつかな?」
 朝食の席で、そう言って瞳をらんらんとさせている西条凍時――自分の夫を、夫人はうんざりした気分で見ていた。
「さあ、いつだったかしら」
 本当は数々の恨み言を言いたかった。「貴方に強姦される前に、いい感じになっていた人がいたのよ」と怒ってしまいたかった。だが、罵られても喜んでしまう狂人相手に、何を言っても無駄だ。
 そんなわけで、夫人は今日も曖昧な相槌を打ちながら、朝の苦痛な時間をやり過ごそうとしていたのだが……。
「もし俺だったら嬉しいな、なんて……」
「……はい?」
 この発言には、さすがにイラッとした。どこをどう勘違いすれば、こんな発想ができるのかわからない。
 歪めた顔をあげれば、凍時の顔に「言ってほしいな」という感情が貼りついていた。
 嫌悪感がこみあげる。
 全てを諦めきっていた夫人にしては珍しく、この時ばかりは我慢ができなかった。
 普段は作った微笑みばかりを象っている口から、つらつらと真実が出てくる。
「いたわよ。貴方に誘拐される直前、イイ感じになっていたサークルの先輩がいたの。彼は貴方と違って、誠実で清らかで、肉欲などに溺れない人だった」
 一息で言いきった夫人は、久しぶりにスッキリした気分になった。
 どんな絶品料理も砂を噛んでいるような心地だったが、今は幾分か美味しく感じる。
 凍時は数秒間、ポカンとした顔をしていた。夫人が他の男を絶賛したのは初めてだったから、かなり驚いたらしい。
 そんな反応も、夫人は愉快でならなかった。ささやかな仕返しができた気分で、くすりと笑う。
 すると、もう復活してしまったらしい凍時が、爽やかな笑顔を浮かべて言った。
「へぇ。君がそう言うくらいだから、とても素敵な人だったんだろうね」
 一瞬、背筋のあたりがゾクリとしたが、夫人は連日のセックス漬けで風邪でもひいたのかと思った。

 その日の夜は、奇妙なほどに静かだった。
 洗いたての髪をまとめながら寝室に向かっていた夫人は、その不気味さに眉を顰める。
 この西条家で馬鹿騒ぎをする者がいるとは思えないが、それでも今夜は静かすぎる。まるで誰かが、意図的に人払いをしているようだ。
 そう考えた矢先、廊下の奥――夫婦の寝室から、呻き声のような音が聞こえてきた。
 足を止め、じっと扉を見つめる。嫌な予感がした。元から入りたくない部屋が、もっと忌まわしいものに見える。
 けれど入らなければもっと酷いことになると、夫人は経験則からわかっていた。
 呻き声は、きっと凍時以外の誰かが発したものだ。誰か第三者がいるのなら、その者が酷い目にあっているのは確実。
 そうなれば、夫人が放っておけるわけがなかった。凍時に散々苦しめられてきたから尚さら、他の誰にも苦しんでほしくないと思う。
「あの男、今度は一体何をしでかしたの……」
 全力で逃げだしたいのを我慢して、寝室へと近づく。緊張で汗ばんだ手で、静かに扉を開いた。

「やあ! 遅かったね。でもおかげで、こっちの準備は万端さ♪」
「え……」
 凍時がショーの開幕を告げるように、さっと手を広げる。
 示されたほうに目をやった夫人は、頭から氷水を被った心地で固まった。眩暈がして床が揺れる。倒れそうなのか、顔から血の気が失せていくのを感じた。それでも、なんとか踏んばって目を見開く。
 夫人の瞬きを忘れた瞳には、裸で縛られた状態の、かつての先輩……初恋相手がいた。
「なに……、してるの……」
 凍時の斜め上の思考回路には慣れたつもりだった。それでもまだまだ甘かったのだと、夫人は思い知る。
 動揺で震えた声で問いかければ、凍時はスキップでもしそうな楽しげな足どりで近寄ってきた。そして夫人の後ろに回りこみ、思いのほか強い力で肩に手をかけた。
「なにって、見てわかるだろう? これから今朝の話が本当か、検証しようと思ってさ」
「検証って――」
 話している最中だと言うのに、凍時が夫人のネグリジェの前を勢いよく開く。
 下着はつけないように言われていたから、まろやかな膨らみがそのまま露わになる。室内は大して寒くなかったが、されたことのおぞましさに、ざっと鳥肌が立った。
「凍時、さん……?」
「ふふ、もしかして俺に脱がされて、早速期待しちゃったのかな。もう鳥肌が立ってる……」
 勝手な勘違いに、数秒遅れの怒りがこみあげる。
 しかし振り向いて頬を張ろうとした夫人の手は易々と捕らえられ、しかももう片方の手と合わせて縛られてしまった。
 優しいようで強い力に押され、豪奢な椅子の前まで移動させられる。
 それに座った凍時は、当然の流れのごとく夫人を膝の上に乗せた。
 先輩と話しあいでもするのかと思うほど近い距離だ。一歩分ほどしか離れていない。
 もう嫌な予感しかなかったが……大きく開脚させられた瞬間、夫人は悲鳴をあげた。
「いっ……いや! やめて! なにするの!?」
 洗ったばかりの秘所が夜気に触れ、ひやりとする。奥のほうまで見えるほど開脚させられているから、膣口から空気が入ってくるようで、それにもまた羞恥心がこみあげた。
「っ」
 全部、先輩に見られている。かつて憧れていた人に、凌辱されつくして何色になっているかもわからないところを、さらけ出してしまっている。
「先輩……、こんなことに巻きこんでしまって、ごめんなさい。どうか、せめて……こんなに醜くなってしまったところは、見ないで……」
 悔しさと羞恥心で肩が震える。先輩の顔を見られなくて、背後の凍時に恨みのこもった目を向けた。
「あはは。やっぱり君の素の反応はいいなぁ。俺の言葉が君の心に届いてるって感じがする」
「嫌がらせで怒りが抑えられないだけよ」
「さてさて、本当にこれは、嫌がらせなのかなぁ」
 凍時はあやすふうに夫人の頭を撫で、もう片方の手を秘所に滑らせる。
「やっ!?」
 まだ濡れてもいない膣口は、痛みをおぼえるだけだと思っていたが……何かが、浅い部分で弾ける感触があった。とろりとしたものが会陰を伝う。その感触で、夫人は何かしらの薬を入れられたのだと察した。
「なにを入れたの……?」
「悪いものじゃないよ。君が素直になる素敵なお薬さ」
 凍時の「素敵」が、夫人にとって良いものであるはずがない。そう思って夫人が身を捩った時には遅く、薬で濡れた膣口がこすれた瞬間、ざわりとした奇妙な感覚が全身を走った。それは呼吸をするごとに、吐き気を伴うような快感に変わっていって……。
「っ、あ……、あぁ……」
 内側がざわめいて、とにかく触りたくてたまらない。醜い痴態を見せたくないと思うのに、意思に反して腰は揺れる。夫人自身の動きで中が擦れると、今度こそ快感による鳥肌が立った。
「いやっ、こんなの、いやぁ……っ」
「あーあ、もうこんなに愛液を垂らして……。だいぶ媚薬の効力を弱めたはずなんだけど、やっぱり俺の上に乗っているから、敏感に反応しちゃうのかな」
「ふざけないでっ」
「ふざけてなんかいないさ。俺はさ……」
 凍時の指先が、予告無しに中に入れられる。普段ならひきつれるばかりだが、媚薬のぬめりと、溢れ出た愛液とで、簡単に指の根本まで迎え入れてしまった。
「至って真面目に、君に気持ちよくなってほしいだけだよ」
「んくっ!」
 長い指が僅かに曲げられ、夫人の弱い場所を的確にこすってくる。尿意を催すほどの強い刺激だった。
 ずくずくと腹の奥が疼く。痺れるくらい気持ちいいのに、膣口はさらなる刺激を求めて凍時の指に吸いついた。
 すぐに意識が朦朧としてきたため、夫人は正確な数を数えることができなかったが、たぶん十数回ほどこすられただけで、びくびくと腰が痙攣したように思う。とにかく擦られたところが熱くて、溶けそうで……、もう言葉にならなかった。
「ふふ、イク? イッちゃうの? 初恋相手に見られながら、イッちゃうんだね」
「ちが、う! ちがうのぉっ、いやっ、いやぁ! ちが、うぅ!」
 首を振って、なんとか快感に抗っていた夫人は、唐突に指が抜かれてホッと息をつく。
 媚薬のせいか、喘ぎすぎたせいか、眩暈が酷くなっている。
 それでも必死で立ちあがろうとした夫人は、爪が食いこむほど両脚を掴まれ、ぎくりとした。
 ……いつの間にか、凍時の勃起したペニス――既にコンドームを装着済み――を宛がわれている。
「ひっ」
「あはは、まだ逃げようとするなんて、君は本当に恥ずかしがりやさんだなぁ」
 実に素早く無駄のない動きで、凍時は夫人の両脚を後ろから抱えあげる。夫人はさっき以上に開脚し、腰を浮かした状態にさせられた。
 夫人は全身から冷や汗を流し、わななく唇で懇願する。
「お、おねがい……こんなの、やめて」
 指であんなに乱れてしまったのだ。凍時の長く太いものを入れられたらどうなってしまうのか、考えるだけで恐ろしい。恐ろしいのにキュンと子宮が疼くから、もっと泣きたい気分になる。
 凍時はそんな震える夫人のこめかみにキスをしてから、耳元で囁いた。
「どうして止める必要があるのかな。ここからが本番なのに。……さあ、これを入れて、真実を見ようじゃないか」
「やめ――ああぁっ!」
 自重も手伝って、ずぷんと長大なものが根本まで入ってしまう。夫人は串刺しにされた気分で大きくのけぞった。
「はっ、あぁ……ふ……」
 敏感なポルチオが硬い先端で押しあげられる感覚に、ぞくぞくと全身が震えた。吐きそうなほどの快感が押し寄せてくる。
 無意識に内側を締めあげれば、凍時の熱い息が耳にかかった。
「んっ、ふふ、すっごい締めつけ……。入れられただけでこんなに気持ちよくなれるなら、これでごしごしって擦ったら、どうなっちゃうんだろうねぇ?」
「や……、いや……、いやぁ……っ」
 ふるふると首を振るが、凍時が聞いてくれるわけがない。
 逆にその反応が凍時の劣情を煽ってしまったようで、中のものがもっと大きくなった。
「ひっ、やだ、これ以上おおきくしないでぇっ」
「ふふ、俺の奥さんには天邪鬼なところがあるから、困ったものだね。まあそんなところも可愛いのだけど」
「ちがう! ほんとうに……!」
「ほーら、君が大きくしたこれで、たーくさん、中を広げてー……ぐっちゅぐちゅにしてあげるっ」
 凍時が腰を突きあげた瞬間、雷に打たれたような衝撃が全身を痺れさせた。はくはくと口を開閉させるが、ろくに空気が入ってこない。
 凍時はそんな夫人の反応が落ち着くのを待たず、続けざまに腰を突きあげた。
 ぐちゅん、ぬちゅん、といやらしい音が鳴り、愛液が飛び散る。その飛沫は、先輩の膝にもかかった。
「っ、はあ、はあ、はあ……」
 快感でぼんやりしていた夫人は、凍時のものだと思っていた荒い呼吸音が、前からしているのに気がついた。この時ようやく、虚ろな目を前に向け、先輩を視界の中央にとらえた。
 荒い息遣いの合間に、掠れた声が聞こえる。
「……――ちゃん、ごめん。俺……、俺……」
 なぜ謝られたのか、すぐにはわからなかった。しかし徐々に視線を下げ、先輩の……すっかり勃起したペニスを目の当たりにして、夫人は悟った。――先輩が、凍時に犯される自分を見て、興奮しているのだと。
「せんぱい……」
 先輩は悪くない。こんなにいやらしいものを見せられたら、勃起してしまう男性もいるだろう。……頭でそうわかっていても、夫人の心は悲鳴をあげた。
 最後の美しい思いでが、ガラガラと音を立てて崩れていく。
 久しぶりに、夫人の瞳から一粒の涙がこぼれ落ちる。
 けれど感傷に浸る間もなく、ごん、と子宮口を突きあげられた。頭の中をとかし尽くすような強烈な快楽で、醜い声が出る。
「ひぎっ!」
「ふふ、あは! あはははは! ご覧よ。これが、君が『誠実で清らかで肉欲などに溺れない』と言っていた男の姿だよ。でも実際はどうだい? もう完全に勃起してるじゃないか! ……ふふ、まあ、そうだよね。俺は最初からわかっていたよ。可愛い君の姿を前にして、興奮しない男などいるはずがないんだから、ねっ」
 亀頭が子宮口を押し開く。密着してこすりあげる。
 一つ突きごとに腹の奥で熱が膨れあがり、弾けて、意識が朦朧としていった。
「あー、彼のものも切なそうだねぇ。可哀想だから、手だけ縄を解いてあげようか」
 夫人は惚けながら首を傾げる。視線を前に落すと、凍時の部下によって、先輩の手の縄が解かれていた。
 そして先輩は、自由になった手をぶるぶると震わせ、肩で息をする。
 自由になったことを喜んでいるのかと思ったが、その目はやけに血走り、ギラついていた。
「さあ、もう我慢しないでいいんだよ。今夜は特別に、俺の奥さんの媚態を、おかずにすることを許そう」
「え……」
 夫人が驚きの声をあげるより早く、先輩は己の猛ったものを握りしめていた。そのままごしごしと、勢いよく上下にしごき始める。
「せんぱい……?」
「あっ、はぁ、はぁ、ごめん……、ごめん。でも、もう……我慢できない!」
「ははは。彼にも素直になる薬を飲ませてあげたからね、見ているだけなのは、さぞかし辛かっただろう」
「っ、貴方! なんてこ、とぉ! あっ、あんんっ!」
 夫人の怒りごと擦り潰すかのごとく、凍時が勢いをつけて最奥を抉る。
 抜き差しの度に漏れだす愛液はもはや尋常ではなく、絨毯を湿らせていた。
「あっ、あぁあっ! もう、いやっ! あっ、いや、なのぉっ!」
「うんうん、早くイキたくてたまらないよね。俺も、はあ、はあ、さっきから我慢するの、大変だったんだ。だから、ね……? 一緒にいこう?」
「あぅっ!?」
 ガクガクと頭が揺れるほど揺さぶられる。
 達しそうになって狭まっている膣を乱暴なまでにこすられると、嵐のような快感の渦にのまれた。
「あっ……ああああっ!」
「っ、あぁ、あっ……あぁ、イクッ! 俺もイクよ! 愛してる! あいして……るぅっ!」
 勝手な愛を叫びながら、凍時も激しい絶頂にぶるりと震えあがる。
 先輩も、夫人の達する姿に最高潮に興奮したのか、息を詰まらせながら射精していた。
 びゅく、と噴きだした先輩の精子が、夫人の腿を濡らす。
 たらりと伝う白濁の液を見おろし、夫人は口元だけで笑った。昔の記憶を持っていることすら、馬鹿馬鹿しくなった。

 ほどなくして、再び現れた凍時の秘書が、先輩を連れていった。
 静まり返った室内で、夫人は凍時の雨のようなキスを、無表情で受け続けた。そうして数分の後、ぼそりと呟く。
「貴方は、私の美しい思い出をことごとく壊していくつもりなのね」
「……この程度で壊せているのなら、俺はとっくに君を手に入れられている」
 いつものイカレた言動が飛んでくると思っていた。しかし、つい呟かれたといった感じの声は切なげで、夫人はなんとなくモヤモヤとした気持ちになった。
 もしかしたら、この人のポジティブさは、とんでもないネガティブの裏返しなのではないか――夫人がそう怪しんだ時、凍時が道化めいた笑い声をあげた。
「あは♪ なーんちゃって♪ 壊すだなんてとんでもない。俺はただ、君に真実を知ってほしかっただけだよ」
「真実ね……」

 強引に作りあげられた真実に価値などあるのだろうか。
 かつて憧れていた人の精液がかかった太腿は、酷く冷たかった。


<了>