「くっ、殺せ! このような辱めを受けるくらいなら、 死んだほうがマシだ!」 魔王に敗れた勇者一行の一人である聖騎士ラグエルは、 「俺を残して先に行け!」と言って仲間を逃がす。 そうして気が付けば、魔王城の地下牢で囚われていた。 これからあらゆる拷問されるのかと覚悟を決めたラグエルだったが、 事態は思いもよらない展開になっていく。 初めての感覚にうろたえ、恥辱に震えるラグエルは、高潔な精神で叫ぶ―― 「くっ! 殺せ!」と。 その一言により、世界は形を変えていく……。
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キャストコメント CV初時チェリー様
Q1・ラグエルの好きなところがあればお教えください。
自分の意思をしっかりと持っているのが好きです。
今まで信じてきた世界が崩壊して戸惑うけど、自身で見た物、感じた事を現実として受け止めて何が正しいのか判断する。
それって簡単な様に見えてとても難しく勇気のいる事だと思うんですよね。
それが出来るラグエルを尊敬しますし、こんな人間になりたいと思いました。
ラグエルは優しいんだ、素敵なんだ。
Q2・ラグエルの共通点はありますか?
ラグエルくん照れ隠しするんですよ、でもバレバレなんですよ笑
そんな隠そうとしても隠せない所が似てますね。
僕も昔から隠し事が出来ないタイプで、嘘をつけばバレる、サプライズをしようとすれば顔に出過ぎて勘づかれる、ドッキリを仕掛ける前に終わる。
そんな青春時代を送ってきました。
素直なんだ……うん、素直なんです!!!
Q3・ユーザーの皆様にメッセージをお願いいたします。
ラグエル役の初時チェリーです。
細部まで凝られたストーリーや情景描写の数々、想像力を掻き立てられました。
そんな世界で色んな事に触れて心が変化していくラグエル。
聴き終わった頃にはラグエルへの愛が爆発していると思います(僕がそうでした!)
是非一冊の小説を読んでる気持ちで楽しんで頂ければ嬉しいなと思います。
ショートストーリー
【発売前SS】
『くゆる願い』 著・雪華
「湯治っていいわよねぇ。身も心も癒されるって感じで」
などと言いながら、開放感たっぷりな露天風呂に向かっていく全裸の女。恥じらいは前世にでも置いてきたのだろう。清々しいほどの堂々とした歩みだった。
その後ろ姿を薄目で見やりながら、俺は盛大な溜息と共に吐き捨てた。
「そうだな。共に来ているのがお前でなければ、俺も癒されただろう」
自分が置かれた状況と、目の前の女との関係性を考えれば、安らげるわけがなかった。
なにせ女は魔王と呼ばれる人類の敵。そして俺は、その魔王を殺しにきた勇者一行の内の一人で、聖騎士。といっても「女人と交わるなかれ」といわれる聖騎士でありながら幾度も穢されたこの身が、未だ聖なる騎士といえるのかわからないが――、とにかく敵同士だ。そんな関係で、なにが楽しくて共に湯治をなければならないのか……。考えるだけで胃がキリキリと痛む。今首を縛めているものがなければ、とっくのとうに逃亡している。
忌々しさを露わに、俺は首を一周する『服従の首輪』とやらをなぞった。
「せめて湯に浸かる時くらいは、これを外してくれないか」
「あら、湯に浸かったくらいで駄目になる首輪じゃないから心配いらないわよ」
「俺の精神が駄目になるんだ。首に爆弾を抱えたまま、毎度入浴しなければいけない俺の身になってみろ」
魔王の脅し文句によると、この首輪は俺が逆らったり逃亡したりすると爆発するらしい。言葉通りなのか試してみたい気持ちはあったが、本当だったら即死だ。生か死の二択しかないのに実験してみるほど、俺は命知らずではない。
(そう言えば、またお前は不思議がるのだろうな。一人戦場に残ったくせにと)
しかし勇者をかばって帰還させたのは彼が幼馴染みだからであって、崇高な志からではない。つまり俺は、魔王が思っているほど善良な人間ではないのだ。
(こういう俺の本質を知った時、お前はどういう顔をするのだろう)
がっかりするのか、憤るのか、はたまた愉快そうに嘲るのか……。いずれにしろ、想像して楽しいものではなかった。
げんなりした気分で首輪から手を離し、大きく肩を落とす。
それを降参の表現と受け取ったのか、魔王は意気揚々といった顔で距離をつめてきた。体の前を隠しもせずに。
「お、お前! いい加減、女人の恥じらいというものをだな――」
「しもべの面倒を見るのも主人の役目よね。洗ってあげる」
「俺はお前のしもべになったつもりは……、あっ、こら、聞いているのかっ」
俺の話を遮るのも、聞く耳を持たないのも、いつものことだ。内心諦めつつ、それでも肌に触れられれば焦らずにはいられなかった。
魔王のくせに子供のように体温の高い指先が、胸全体を撫で、もったいぶるふうに頂きに触れる。軽くつままれば、鼻にかかった声が漏れた。
「んっ」
耳に入った自分の声で死にたくなる。羞恥心で体温が一、二度上昇した気がした。
これも全て、毎日食事に微量の媚薬を盛られているせいだ。今ではすっかり敏感になり、魔王の手で触れられるだけで欲情する罪深い体になってしまった。
「はぁ、は……」
早速とばかりに、ぷっくりと膨れた乳首。
快楽を期待する体を目にした俺は、こみ上げる羞恥心に任せて叫んでいた。
「くっ、殺せ。こんな体で生きていたくない」
「もう。貴方はすぐ殺せとか言うんだから。……で、こんな体って、どんな体かしら?」
問いつつも答えを待っていない指先が腹筋を撫でおり、早くも頭をもたげている男根に触れる。
たったそれだけの接触で、一気に下腹に血が集まった。
悶えたいほどの疼きが止まらない。
熱い呼気が口から漏れる。
もはや完全に勃起したものは隠しようがなく、滑らかな手で包まれれば、今にも爆ぜそうに脈動した。
顕著な反応に、魔王は唇を蠱惑的に笑ませる。
認めたくはないが、やはりその顔は鳥肌が立つほど艶やかだった。
「っ」
たぶん美醜に関係なく、俺はこの女が醸し出す色香に弱いのだ。
誘う目で見あげられると、心臓がうるさく騒ぐ。ついでに股間のものも跳ねる。まったくもって、嘆かわしい。
俺は熱のこもった息を溜息で誤魔化し、擦りきれそうな理性で呆れ顔を作った。
「お前な……毎度『洗ってやる』と言うが、まともに洗われた記憶がないぞ。なぜ真っ先にそこを選ぶんだ。女人として、いきなり男根を握るなど――」
「さてさて、どんな体になったのか洗うついでに調べないとねぇ」
常のこととはいえ、毎度遮られると眉間に皺が寄る。しかし、それも一瞬のこと。白い手が淫猥に動きだすと、ゾクゾクとした感覚が背筋をのぼり、抗いようのない快楽に抵抗心を飲まれる。
「は、ぁ」
すぐに滲みだした先走りで掌を湿らせた魔王が、男根をこする速度をあげる。
にちにちという聞くに堪えない音が立つ。
魔王は勝手にびくつく俺の腹筋を、空いているほうの手で撫でる。思わせぶりな笑みが、いっそうの色香と共に口角にのぼった。
「あらあら、確かに最初の頃よりもだいぶ変わったみたい。淫乱で可愛い体になった」
「っ、可愛いとか言うな、馬鹿魔王」
揶揄されて悔しいのに、下半身を支配する疼きは酷くなる一方。
情けなく喘ぎそうになった口を手で塞ごうとしたら、その手を取られた。
すぐに柔らかな唇が重なってくる。不意打ちだったせいで舌の侵入まで許してしまった。
「ふ……、ぅ、……ん」
男根をしごく動きとあわせるように、魔王の器用な舌が動く。
避けようとすれば根元から絡めとられ、ぐちゅぐちゅと音を立ててこねられた。そうされることで、口内も性感帯の一つに成り下がる。熱く濡れた肉同士がこすりあわされる感覚は、いつだって俺を惑わす。
「ん、……はぁ、やめろ、んんっ」
逸らした顔は、しかし片手で容易に戻される。口内も男根も激しく刺激され、一気に追いあげられた。
「ぅ、あっ、……くぅっ」
こうなるともう、熱を解放することばかり考えてしまう。反抗心とは逆に腰が揺れる。
だが、もっと擦られたいと腰を反らした瞬間、あれだけ執拗だった手の動きがピタリと止まった。
先走りに濡れた指先が、糸を引いて離れていく。てらてらと光る魔王の掌を、どこか絶望的な気分で見送った。
それがよほど、残念そうな顔だったのだろう。魔王は小さく笑ったかと思えば、濡れた指先をちろりと舐めてみせた。
視線でも行動でも揶揄され、屈辱にわなわなと震える。しかし一番許せないのは、魔王の淫らすぎる行動に欲情している自分だった。
小刻みにビクつく男根が、切ながって涙を流すように、ますます先走りをこぼす。
羞恥に唇を噛み、ふいっと顔を反らした。
「お前なんか大嫌いだ」
頭が快楽で煮えているせいで、ずいぶんと子供っぽい言い方をしてしまった。
それもまた悔しくて唇に力をこめると、あやすふうな声が言った。
「そう拗ねないで、ラグエル」
「これは拗ねてるんじゃない。怒ってるんだ」
「私の中で『よしよし』してあげるから」
「は? 何を言って――、っ」
問う間に押され、後ろにあった木製の長椅子に腰が落ちた。
何をするつもりなのか、ここ数日の流れで容易に想像できてしまう自分も嫌だ。怒り呆れる心中に反し、期待に揺れる男根も許せない。
「お前な……!」
俺が制止の言葉を紡ぐ前に、魔王は軽やかな動きで俺の上にまたがる。そして止める間もなく、一息で怒張した男根を身の内におさめた。
ぐちゅりと音を立てて、全てが熱い隘路に飲みこまれる。
「ぅあっ! あっ……ぁ」
魔族の体内は自由自在なのだと、最初に交わった時に魔王が豪語していた。この濡れた蜜洞の感触を知れば、そうなのかもしれないと思わずにはいられない。なんの準備もなく入れたにも関わらず、膣壁はいやらしくうねり、待っていたとばかりに襞が絡みついてくる。
これだけでも達してしまいそうで、俺は先ほど以上に唇を噛んで堪えた。
魔王は片手で俺の強ばる腹筋を撫で、もう片方の手を肩に置いた。深紅の唇が、にぃっと斜め上に引かれる。
妖しい予感に背筋が震えた。
「待っ――」
これもいつものことながら、待ってくれるわけがない。こちらが必死に射精を堪えているというのに、魔王は最初から激しく腰を揺らし始めた。
熱く熟れた中で男根をこすられるほどに快感が高まる。しごき上げられながら、しゃぶられているようだ。
この世のものとは思えない悦楽に、思わず高い声をあげてしまった。
「いや、だ。やめ……っ、あっ、あぁっ、ん……ぅ。はっ、はぁ、はぁ、あ……、っ」
熱いものが尿道をせり上がってくるのを感じる。我慢するために息を詰めすぎて、もはや酸欠状態に近い。
そんな必死の抵抗を嘲笑う、毒のごとく甘い声が耳孔に流れこんできた。
「ふふ、よしよし、イイ子ね」
その時ようやく、繋がる前の「中で」というのが何を意味していたのか察した。
……こういうのは、頭などを撫でながら言うことではないのか。決して膣内で男根をこすりながら言う台詞ではないはずだ。
指摘したかったが、長い反論をすれば嬌声が混じってしまいそうで、仕方なく最低限の感想を吐き捨てた。
「っ、最悪だ」
「私は最高よ。よしよし、機嫌直して?」
言葉の印象とは真逆の淫らすぎる行為に苛立つ。それなのに意図的に狭められた膣でしごかれれば、呆れや怒りといった感情からは程遠い声があがった。
「ふっ、ぅっ、あぁ……、これは、だめだっ」
堕落へと誘う感覚だ。敵意も理性もドロドロに溶かし、人を駄目にする。
快感のあまり口端からたれた唾液を、魔王は口づけで拭っていった。
(っ、お前は本当に、馬鹿魔王だな。なんて顔をしてるんだ)
間近で瞬く瞳は泣いたように潤み、魔王も確かに感じているのだとわかった。とろんとした目が、甘い声が、俺をそそのかす。
「全然『だめ』じゃないわ。こんなに硬く、大きくして……ふふ、本当にイイ子。この上なく美味しい……」
魔王は大きく腰を回し、敏感な先端をぐりりと子宮口でこする。強制的に射精させる動きだ。俺がこれをやられると呆気なく果ててしまうとわかっていてやっている。証拠に――
(出される前、お前はいつもその仕草をする)
魔王は子種を注がれる直前、下唇を舐めるクセがあるのだ。まるで極上の甘露を前に、舌なめずりするように。
それを見たら、腹の底がぐつぐつと煮えた。いい加減、我慢の限界だ。
(くそっ、いつまでもやられっぱなしだと思うなよ)
がしっと魔王の腰を両手で掴む。不思議そうな顔をした魔王を、いっそ愉快な気分で見あげた。
「本当にイイ子かどうか、確かめてみろ」
腰を引き寄せる動きとは逆に、下から猛烈に突きあげる。
あの状態から反撃されるとは思っていなかったのか、魔王は珍しく目も口も大きく開けたままのけぞった。
「ひぁっ!? あっ、つよ、いぃっ!」
「はぁ、はっ、くく、どうだ、痛いか」
勝ち誇った気分で口角をあげる。だが戦勝気分は一瞬で終わった。
「ううん、すごい……きもちいい。きもちいいのっ。もっと、もっとちょうだい、ラグエルぅ」
甘ったるい声でねだられ、どくりと心臓が跳ねる。息が止まる。体中の血が騒ぐ。
……不覚にも、可愛いなどと思ってしまった。
「ぅ、くっ」
腰骨から溶けてしまいそうな快感に目がかすむ。
追い打ちをかけようとでもいうのか、熱くとろけた膣内が男根を舐めるように絞りあげてきた。
突きあげる度に締めつけは強くなり、肉茎全体が激しくこすれる。
「ラグエルも、きもちいい?」
「っ……よく、ない」
「正直に言わないと爆発させちゃうかも」
脅された瞬間、心中の重石が消えた。
馬鹿な話だと頭の片隅で思ったが、これで何を言っても許される……そんな気持ちになったのだ。
「あぁ、……きもちいい」
理性も、意地も、何もかも――ぐずぐずのどろどろに溶かす悦楽に酔う。
聖騎士としてどころか人としての矜持も忘れ、ただ熟れた隘路を穿つことだけで頭がいっぱいになった。
「ラグエルッ、これ、いい! すごく、いいの! こんな深いところ、ラグエルしか届かないっ」
「! はっ、はあ、はあ、……そう、なのか?」
「あんっ! ん。だからラグエルの、大好き、なの。あぁ、好き……好きぃ」
好きと言われたのは男根のほうだ。決して俺に向けた愛の言葉ではない。そんなのはわかっているのに「好き」と繰り返されるごとに錯覚にはまる。
「魔王……っ」
なぜだかわからないが――いや、きっと過ぎる快感のせいだろう――涙が一粒こぼれる。
同時に、ギリギリのところで堪えていたものも溢れ出してしまった。
「あっ、くっ! だめだ、出――っ、……あぁっ!」
男根を抜こうなどと考える余裕はなかった。むしろ魔王の腰を強く掴み、積極的に子宮内に子種を送りこむ。射精している間はずっとそんな調子で、忘我の海を漂っているようだった。心地よくて、安心できて、残酷な幸福感に包まれる。
「ん、今日のラグエルの子種、特に美味しいわね。濃厚な魔力がこめられてる。……あぁ、子宮を満たされるこの感覚……最高だわ。今度こそ孕んでしまうかも?」
恍惚とした表情で囁いた魔王は、尿道に残った分まで吸いだすように膣を締める。
脳まで痺れる快感に、情けなくも腰を跳ねさせてしまった。
「ぅっ、もう、やめろ。今ので、全部枯れた」
「まだ出てるわよ。最後の一滴まで、ちゃんと味わわせて」
「っ、どこまで淫らなんだ、お前は」
「極上の男を前にしたら、どこまでだって淫らになれるわ」
自分を殺しにきた男だというのに、いつも魔王は俺を褒めちぎる。「素敵」「可愛い」「今までで一番」――それら全てを心から言っているのだと伝わってくるから、たちが悪い。
いくつもの称賛に囚われ、気づけば刃を握ろうという意思さえなくなっていた。
そんな自分が厭わしい。自己嫌悪に沈み、魔王の肩口に額を伏せた。
「はぁ……本当にお前は、わかっているのか。子ができたら一大事だぞ」
「そうねぇ、確かに一大事だわ。世界一可愛い子が産まれるでしょうから」
「醜悪な形をした子かもしれないぞ」
「姿形はどうでもいいのよ。貴方との子なら、世界一可愛い」
慈愛を感じさせる声で言われ、喉を締めつけられた心地がした。ばっと顔をあげて美しい瞳を睨む。
「お前は……!」
――なぜそんな、俺を愛しているかのようなことを言うんだ。誤解させないでくれ。
などと叫びそうになり、ぎり、と奥歯を噛む。
魔王は俺の歯噛みの音が聞こえただろうに、平気な顔をしてねだってきた。
「抱きしめて、ラグエル」
「嫌だ」
「えーっと、爆発させる呪文ってなんだったかしらー」
「……仕方なく、抱きしめてやる。死にたくないからだぞ」
「ふふ。はいはい、わかってるわよ」
これみよがしな盛大な溜息を吐いて肩を落とす。「ん」と両腕を広げた魔王を半眼で見やり、諦めの境地で抱きしめた。その後、ぎゅっと抱きしめ返される。
夢中で交わっている最中には感じなかった、女体特有の感触にドキリとした。
(柔らかい。こんなにも柔らかい体に、俺たちは剣を突き立てていたのか)
乞われて抱きしめたのが初めてだからだろうか。幾度も交わった関係だというのに、今さらながらそんな感想を抱いた。そして再び自己嫌悪に沈む。
(どうかしている。魔王は人類の敵なんだぞ)
わかっているのに、このままでは本当に自分の立場を忘れてしまいそうだ。それが恐ろしくて離れようとした。
「おい、いつまでこうしているつもりだ」
「だって、安心するんだもの」
「安心?」
「ええ。いつか両族が手を取りあえるんじゃないかっていう夢を見られる」
「……」
以前魔王から聞いた『真実』が頭を過る。仮にあの話が本当だとしたら、目もあてられない凄惨な真実だ。
わかっていて「夢」を口にする魔王に、苛立ち混じりの同情心をおぼえた。「叶うわけがないのに」と心中で呟く。
「……儚い夢だな」
応える俺自身の声が震えて聞こえたのは、きっと揺らめく湯気のせいだ。そう断じて眉根を寄せる。
すると束の間、魔王の姿が湯気で霞んだ。
白く溶けてしまいそうな姿に目を瞠り、息を飲む。咄嗟に抱きしめる腕に力をこめてしまった俺は、なんとも言い難い苦々しい気持ちで顔を歪めた。
「ラグエル? んっ」
腹いせのように魔王の肩に軽く歯を立てれば、そのまま食い破れそうな柔肌の感触に泣きたくなった。これも何故だか、わからないが。
「……本当に、儚い」
呟く声は、立ちのぼる湯気に溶けて消えていった。
<了>