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一真

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※誠の子供が出てきます。


『神はいないが』 作・雪華


 この世に神はいない、というのが山那誠の信条だった。聖夜を性夜にするという極めて不謹慎な理由でクリスマスの日は大事にするが、あくまで行事としての面しか見ていない。お正月も姫始めと称してハメまくるが、それも愛しい妻を激しく愛したいがための後付けだ。
 だから長男の誠二が縁結びの神様に向かって一生懸命祈っているのを見て、思わず鼻で笑ってしまったのだ。それだけならまだしも、あろうことか誠は「そんなに欲しいなら、押し倒して孕ませろ」と賽銭箱の前で言い放った。縁結びの神様が本当にいたとしたら、憤慨どころの話ではない。
 もっとも、即座に天誅を下したのは神ではなく、妻だった。阿修羅の顔をして誠に平手打ちをくらわし、以降ずっと口をきいてくれなくなった。
 家の中は実に冷え冷えとし、正月とは思えないお通夜ムードが漂っている。
 無言で食器を洗っている彼女の背には「触るべからず」という目に見えないお札が貼られているようだった。キッチンには怒りで結界が張られている。
 四人の子供たちですら恐れをなして近寄らないその空間に、事の発端となった誠が、深呼吸をして足を踏み入れていった。
「なあ、いい加減、機嫌直せよ。百万のダイヤでもバッグでも、なんでも買ってやるからさ」
 誠としては誠意を見せようと思ったのだが、ぴたりと動きを止めた彼女からは、さらなる怒りのオーラが噴出された。ちらりと肩越しに誠を見て「この上、物でつろうとするなんて最低」と呟く。
 言葉の刃でぐさりと刺された誠が、胸を押さえて呻いた。
「っ、なんでそこまで怒るんだ。俺は父親としてアドバイスをしただけだろ!」
「私が怒ってる理由がわからない内は、話すことなんかない」
 絶対零度の視線で誠を射抜いてから、彼女は再び前を向く。
 しばらくの間押し黙っていた誠だったが、ついには我慢できなくなり、大股で近寄っていった。
「ああ、そうかよ。上の口がだんまりなら、下の口と話すことにする」
 背後から「おやじくさい」と誰かの声が聞こえた気がしたが、もうどうでもよかった。誠は黙したままの彼女をシンクに押しつけ、柔らかな胸をわし掴みにした。それでも乱暴に揉みしだくことはせず、絶妙な力加減でやわやわと二つの膨らみを刺激する。首筋から漂う彼女の甘い匂いに、心臓が高鳴った。
「お前の匂い、歳とるごとに美味そうになるよな」
 獲物を捕らえた狼のごとく犬歯を立て、べろりと舐める。
 身を捩る彼女を押さえようと胸を少し強めに揉めば、エプロン越しでも乳首がたっているのが見えた。
 にやりと口端をあげ、その頂を摘まむ。
「っ」
「最近はアイツらのことを気にして夜しかしてなかったからな。お前も飢えてるだろ?」
 普通の夫婦ならば、夜にすれば十分だ。しかし精力も愛情も溢れすぎている誠にとっては、全然足りない。
 そんな誠に付きあい続けた彼女の体もまた、激しく求められることに慣れてしまっている。
 その証拠に、摘ままれたばかりの乳首はすっかり硬くなり、押しても元に戻らなくなっている。
 ここ数日は冷たくされるばかりだったから、誠は彼女の敏感な反応が嬉しかった。勢いに任せて腰を押しつけると、硬くなったペニスが圧迫されて、ぞくりとした快感が走る。
 嬌声を我慢しているらしい彼女が「ん」と短い声をあげるのも、誠の下半身を刺激した。はぁはぁと息を荒げ、熱に浮かされた心地で自身のズボンを引きおろす。
 歳を重ねても未だ元気すぎるものが、ぶるんと跳びだした。
 誠は素早く彼女のスカートを捲り、下着をずらし、滑らかな腿の間に高ぶったものを入れる。
 彼女は何度か逞しい腕から脱出しようと試みたが、興奮しきった誠相手に、それは無理な話だった。後ろから押さえられた状態のまま、勝手に素またを開始されてしまう。
 ずり、ずり、と……熱い肉茎が、膨れたクリトリスと擦れる。
 腰を揺らすごとに愛液の量が増していく。
 火照った陰唇にねっとりとペニスを包まれ、誠は思わず涎を垂らしそうになった。
「はぁ……もう我慢できねぇ」
 精力旺盛するぎる誠が、まさしく「おあずけ」をくらっていたのだ。一度理性を失えば素またで止まれるわけがない。彼女が無言でいるのをいいことに、亀頭の部分を膣口に埋めていった。
「はっ、はー……久しぶりの、お前のマンコ……。すっげぇ気持ちいい」
 ゆっくりと時間をかけて、太い部分を飲みこませる。
 本当は一気に突き入れて、先端で子宮口を感じたい。
 けれど、そこは一応遠慮しておいた。
 無許可で入れておいて何を言っているんだと突っこまれそうなものだが、誠には誠なりの配慮が……あったのだが、隘路にきゅうっと絡みつかれ、かろうじて残っていた「遠慮」が溶ける。
「っ、あぁ、やっべーな……吸いあげられて、腰止まんねぇ」
 彼女の体を抱きしめ、思いきり腰を突きあげる。
 一気に伸ばされた膣内がざわめき、大量の愛液をこぼした。
 ペニス全体がきゅうきゅうと絞られ、誠のほうが快感による声を漏らす。
「ぐっ! はっ、あぁ……今日も、いい締めつけ……」
 彼女は誠の子供を四人産んでいるが、元々の体質なのか、産前とあまり差がない。むしろ誠の形によく馴染むようになって、より深い快感を誠に与えるようになった。
 俺に溺れさせてやると息巻いていた過去を思い出すと、誠は恥ずかしくなる。すっかり溺れて虜になったのは、誠のほうなのだから。
 抱きしめたまま腰を揺らすと、彼女の中が敏感に反応し、竿をこするように蠕動する。久しぶりだから、彼女も飢えていたのは、本当だったのだろう。
 すっかり調子に乗った誠は、劣情に染まった耳を甘噛みしながら、意地悪な声で囁いた。
「さっそくイッちゃいそうか? くく、やっぱり怒ってても、ここは正直――、っ!?」
 突然、痛いくらいに締めつけられ、誠が息を飲む。
 ゆらりと頭をもたげた彼女は顔だけで振りむくと、怒気を湛えた目で誠を睨んだ。
「イかない。貴方だけ、勝手にイッて」
 言うや否や、締めつけがいっそう強くなる。彼女が腰を揺らすと、怒張したペニスが激しく擦られ、一気に射精感が高まった。
 完全なる不意打ちに抑えがきかず、ぞくぞくとした快感を止められない。締めつけられているからか、それとも負けた悔しさのせいか――自身のペニスが膨れあがるのを、いつもよりはっきりと感じた。
「ぐっ、ぉっ……!」
 彼女が達して柔らかくなった膣内に注ぐのもいいが、圧迫されながらの射精には、また違った心地よさがある。
 先端から精子がふき出した瞬間、誠はあまりの快感にぶるりと大きく震えた。
「はっ、はぁ、はぁ、はぁ……お前、いきなり……、っ!」
 達したことで力が抜けた瞬間、勢いよく突きとばされる。
 二歩ほど後退したところで踏みとどまったが、彼女はその隙に駆けだしていた。
「待てよ!」
「……なに」
「走ると俺の精子がこぼれる」
 誠としてはごく真面目に言ったのだが、この一言がさらに彼女の逆鱗に触れてしまったらしい。早足で距離をつめた彼女から容赦のない平手打ちが飛んできて、ぱぁんと高い音が鳴り響く。
 身体能力が高い誠にとっては、避けることなど造作もなかったが、一応の反省として叩かせたのだ。
「悪かった」
「なにが」
「久しぶりなのにいきなり入れちまった。愛撫も足りなかったし、それに」
「――もういい」
 どの後悔も的外れだったらしく、彼女を引きとめることはできなかった。
 パタパタという走り去る音を、誠は茫然としながら聞いていた。
 すると、その音と入れ違いに、落ち着いた足音が近づいてきた。
「水飲みたいんだけど、終わったよな」
 淡々と言う声は、誠のそれとよく似ている。声だけではなく、顔立ちもそっくりだった。中学までは低いほうだった背も、高校になってからは一気に伸びて、もうすぐ誠に追いつこうとしている。かつて、ありとあらゆる女性に言い寄られた父親の魅力を存分に引き継いだ長男は、しかし父のように多くの女性と付きあうことはせず、ただ一人の幼馴染だけを愛していた。
 誠二が愛する彼女――その家名は、西条。世界の西条と呼ばれる男の孫であり、西条光の愛娘だ。つまり昔で言うなら「やんごとない身分の姫君」である。加えて彼女は、家名に甘んじることのない素晴らしい女性であり、自然と皆を魅了している。ゆえに惹かれているのは誠二だけではなく、かの久世家と皇家の子息も夢中だというのだから、えらい競争率の高さだ。
 ……という背景があって、誠は「なら先に」と思ったのだ。ちなみに西条凍時の怒りを買う恐れはない。他ならない凍時に確認しているからだ。
 西条凍時という男は奇妙な者で、孫のことは可愛がっているが、誰と結ばれるのかには頓着がない様子だった。「まあそれで彼女が幸せになるなら、いいんじゃないかな」とのたまって、妻にグーで殴られるくらいだ。
「問題なのは、父親のほうだよなぁ。それこそ既成事実でもないと許しそうにないもんな」
 愛息子の背を眺めていると、緩くなった口から勝手な親心がこぼれる。
 コップ一杯の水を飲みほした誠二は、頭をあげると、背を向けたまま言った。
「父さんには、ライバルがいなかった。でも俺には、強力なライバルが二人もいる。強引に体を奪えば、あの二人にアイツの心を持っていかれるだけだ。それに、俺はアイツを傷つけたくない」
「んな悠長に構えてる場合かよ。カッコつけてる間に、久世家にだし抜かれるぞ」
「正真も、大心も、アイツを大切に思ってる。間違っても父さんみたいな卑劣な真似はしない」
「お、言うようになったな」
「父さんは後悔しなかったのか?」
「まるで俺たちの過去を見てきたような言い草じゃないか」
「あんな提案をされたら、嫌でも想像できる。で、今もまったく後悔してないのか?」
「してない。傷つけて悪かったなとは思うけど、俺はアイツがどうしてもほしかったから、確実な手段を選んだ。その結果に満足してる」
 淀みなく言い終えると、誠二が深い深い溜息をついた。
 こん、とコップが置かれる。
 振り向いた誠二の目は、呆れてはいても、父を蔑んではいなかった。
「父さんは、この点に関してだけはクズだ」
「だろうなぁ」
「でも、他の点では尊敬してる。母さんや俺たちを常に守ってくれるし、全力で愛してくれてる。……たまに愛し方がおかしいけど。そういうおかしいところで、凍時さんと通じあっちゃってるんだろうな」
「人間、誰しもおかしなところがあるだろ。お前にだって、きっとある。それに凍時さんとは変態仲間なだけだ」
「自分で変態って言っちゃうのか」
「お前だって変態だろ。彼女のハンカチでチンコしごいてたじゃねぇか」
「なっ!? なっ、なん……!」
 不意打ちの一言に、誠二の顔が真っ青になる。そうしてブルブルと震えていたかと思ったら、次第に真っ赤になって、誠を睨んできた。
「なんで知ってるんだ」
「俺が悪いんじゃないぞ。部屋に呼びに行ったら、お前が扉を完全に閉めないままオナニーしてたんだ。女物のハンカチでチンコしごいて、あの子の名前を呼びながらさ。いやー、好きな子のハンカチを盗んでおかずに使うなんて、俺でもしないぞ」
 ただし、パンツでは百回以上抜いた。
「ち、違う! 盗んでない! あれは怪我した時に貰ったんだ!」
「なんだ、つまんねぇな」
「つまんないって……、はぁ。そんなこと言ってるから、母さんに怒られるんだよ」
 がっくりと肩を落とした誠二は、気を取り直した様子で背を伸ばす。それから自身の母のように苦笑し、誠を窘めた。
「父さんは、なんでもできるくせに、母さんに対しては不器用すぎる。昔は大勢の女の人と付きあってたんだから、もう少しその時の経験を活かせばいいのに」
「他の女のことなんか参考にならない」
「なんで」
「誰も愛してなかったから」
「我が父ながら、やっぱり最低」
「本当のことなんだから仕方ないだろ。俺が愛する女は、アイツが最初で最後だ」
「まったく、父さんは昔からブレないな……」
 誠二が遠くを見る目をすれば、それに合わせたように窓ガラスに水滴が当たった。ぽつぽつとしたそれは、すぐに激しい雨に変わる。
「この雨に打たれたら、風邪ひくな」
「そうだな。迎えに行ってくる。……あ、そうだ、誠二」
「なに」
「アドバイスは外れてたのかもしれないけど、お前のことは心から応援してる。幸せになってほしい」
「はいはい」
 息子に軽くあしらわれながら、誠はキッチンを走り出た。湿度が高いせいか、途中の廊下で転びそうになる。筋肉の力で踏ん張り、跳ぶ勢いで玄関に着く。急いで靴を履いたせいで紐が解けていたが、彼女が雨に打たれることを思うと、のんびりしている余裕はなかった。

 それから数分ほど、雨でけぶる街を走った。
 彼女から連絡があったわけではないが、夫婦としての長年の付きあいで、行先については大体の検討がつく。たぶん、街で一番大きな公園だろう。
 ――そうアタリをつけて駆けていた誠は、反対側から走ってきた姿を認め、ぴたりと足を止めた。
「はあ、はあ、……あれ? なんでお前……」
「はあ、はあ、……誠さん?」
 誠に気づいた女性――最愛の彼女が、驚いた顔で立ち止まる。それから少し気まずそうに、公園を囲む柵に手をついた。彼女もだいぶ息があがっているらしい。
 誠は早く傘を差しだしたかったが、彼女の表情が深刻そうで、近寄れない。
 あの犯した時よりも、言いたいことがある顔だった。
 もしや離婚の危機か、と心臓が跳ねる。
 素直に離婚するつもりは全くないが、別れると言われるのは悲しい。
「……ねえ」
 らしくなく誠がびくついていると、雨音に消されそうな小さな声が聞こえた。
「な、なんだ?」
「そこで雨宿りしていかない?」
 彼女が指さしたのは、公園のベンチだった。上には屋根があり、そこだけ芝生が濡れていない。
「でも早く帰って体を暖めたほうが……」
「二人で話したいの」
 ぴしゃりと遮られ、誠は傘を持っていた手を下ろす。
 頷いて公園の中に入ると、彼女もその後ろについて歩き、二人並んでベンチに腰かけた。
 雨が降っているせいか、沈黙がやたらと長く感じる。
 誠がそわりとしだした時、彼女が俯いたまま口を開いた。
「雨が降ったから、走って戻ってきたの」
「え?」
 誠は昔、雨がトラウマだった。今でもあんまり気持ちのいいものではないが、それでも昔と比べると大分ましになった。だから彼女が言わんとしていることが、すぐにはわからなかった。
「ああ……そっか」
 少し遅れて気がつき、嬉しくなる。
「俺のこと、心配してくれたのか」
「そりゃ、心配するよ。頭の配線がちょっとおかしい変態でも、私の大事な旦那様だもん」
「今日はやたらと、おかしいおかしい言われるなぁ」
「? 私は初めて言ったけど?」
「こっちの話。……ありがとな、心配してくれて」
 微笑むと、彼女が困ったふうに苦笑して、また沈黙する。
 しばらくの間、二人で雨に打たれる地面を見ていたら、彼女が唐突にくすりと笑った。
「私が山那学園に転入した頃、憶えてる?」
「当然」
「あの時の私は……両親を失って、叔父の家とは上手くいかず、毎日が死にたい気分だった。今はそんなふうに思わないけど、若い頃って自棄になりやすいから、どこにも居場所がないように思えて。しかも少し元気になったと思ったら、貴方に犯されちゃったでしょ? もう滅茶苦茶な気分だった」
 とうとうと話す彼女には、邪魔してはいけない雰囲気があった。
 誠は息を飲んで、横顔を眺めることしかできない。
 やっぱり断罪の果てに離婚を言い渡されるのでは――、と恐れた時、彼女が顔をあげて誠を見た。
「でも……貴方が異常なくらい私を求めたから、存在していてもいいんだと思えた。同棲を強制されてからは、お帰りって言われて、正直ホッとして泣きそうだった」
「ホッと……?」
「無条件に愛されて、居場所を与えられて、暖かい毛布で包まれた時みたいに安心したの。自分を強姦した男が相手だったのにね」
「そう……だったのか?」
 絆されてくれたのはわかっていたが、実際に当時の心境を聞いたのは初めてだった。だから動揺して、問い返すしかなかった。
「うん。そういうの、最初は全部計算づくだったのかと思ったけど、違ったんだよね。貴方はただ、ひたすらに私を愛しただけ。駆け引きとか洗脳とか、考えてなかった。いつだって暴走機関車みたいに私にぶつかってきた」
「そんなに余裕なかったか?」
「あったと思う?」
「……なかったかも」
「そうだね。貴方は、完璧に振るまえる能力があったはずなのに、私には欠けた部分を見せてくれた。私、それが嬉しかった。次第に『貴方を救えるのは私だけなのかもしれない』なんて……おこがましいことも考えちゃって」
「事実だ。俺を救えたのは、お前しかいなかった」
「ふふ、そうだね。私たち、たぶん共依存だったから。ある意味、貴方が言った通り『運命の恋人』だったんだよ。だからね、誠さん……」
 切なそうに微笑んだ彼女が、誠の頬を両手で包む。
 雨で濡れて冷たくなっているはずのその手を、誠は熱く感じた。
「恋心が、強制的な肉体関係でどうこうなるなんて、思わないで。私が貴方を愛したのは、そんな単純な話じゃなかったんだから」
 甘く響く声が、キスの感触と共に誠の胸を打つ。
 驚きに目を開くと、今度は純粋な笑顔がそこにあった。
「怒ってたんじゃないのか?」
「怒ってたよ。貴方への愛情の深さを軽んじられたみたいで、腹が立った。あと、教育に悪いことは、やっぱり反対です」
 サッと上体を離した彼女が、誠の額にデコピンをする。
 意外と強い力で、じんじんとした痛みが頭に響く。
「反省した?」
「ものすごく」
「じゃ、もういいよ。家に帰ろう」
 そんな簡単に許してしまっていいのかと、誠のほうが思うほどの切り替えの良さだった。
 ぽかんとしている誠の手を取り、彼女が立ちあがる。
 いつの間には雨は止んでいて、雲間からは光のはしごが下りていた。
「あ」
 ふと空を見あげた彼女が、繋いでいないほうの手を掲げて笑った。
「何か大事なことがあると、あれが見えるよね。天国のお父さんたちが『良かったね』って言ってるのかも」
「……不思議だな。お前が言うと、そんな気がしてくる」

 その日の虹は、家に着くまでずっと空にかかっていた。
 だから誠は、ちらりと思った。

 空に神はいないが、見守ってくれる亡き父や母はいるのかもしれない。
 この世は彼女が教えてくれる愛に満ちている。

<了>


1000DL記念SS



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『心がたつ~彼女味~』 作・雪華


「それじゃ、先に行ってるな」
 扉を開けた途端、明るい陽射しが玄関を照らす。
 逆行を背負って普段以上にキラキラと輝いた誠を、彼女は目を細めて見あげた。
 その仕草に、誠は引き止められた気がした。単に朝陽が眩しかっただけだろうと自分を納得させつつ「もしかしたら見惚れてくれたのでは」という淡い期待を抱いてしまう。同棲を始めてから現在に至るまで、その期待は日毎に膨らんでいる。
「んな可愛い顔されたら、働きたくなくなる」
「働いてください」
「つれない奥さんだな」
「勝手に奥さんにしないでくださ――、っ」
 縋る気持ちで伸ばした腕は彼女の腰に回され、その柔らかな体を容易に引き寄せた。
 近づいた距離に高鳴る心臓。彼女もそうであるといいと祈りながら胸をつけ、そっと唇を重ねた。
「……行ってきますの、キス」
 誠の突然の接触に慣れた彼女は、呆れたふうな溜息と共に言う。
「それって、無理やりするものなんですか」
「くれないなら奪っていくしかないだろ」
 囁きつつ再度顔を寄せれば、ふっくらとした唇が薄く開く。もはや反射に近い行動だろうが、誠は嬉しくて深く唇をあわさずにはいられなかった。
 もぐりこませた舌先が彼女のそれにあたると、ぬるりとした感触で腰のあたりが痺れる。
「ん、あぁ、俺と同じ歯みがき粉味」
「っ、んん、一緒の使ってるんだから、当ぜ……んっ」
 ぞくりとした感覚に息をあらげ、もっと奥深くまで舌をねじこもうとしたら、
「ストップ! 先生、遅刻しちゃいますよ!」
 誠の肩あたりをパンパンと叩く仕草は、さながら猛獣使い。
 あしらわれた誠は短く嘆息して、降参のポーズで両手をあげる。
「あー、はいはい、わかったよ。じゃ、また学校で」
 あっさりと離れたその一瞬、彼女が不安そうな顔をしたのを、誠は見逃さなかった。
 彼女には悪いが、原因がわかっている誠としては、やはり嬉しくてたまらないことだった。

 そうしてニヤニヤしつつ学校についた誠は、誰もいないのを確認してから人気のない男子トイレに入る。早足で個室に向かい、興奮で汗ばんだ手で鍵をかける。
 やや息を荒げながらズボンを下ろせば、逞しすぎるペニスが天井に向かってそそり立った。早くも充血しきったそこは、細かな血管を走らせ、びくびくと揺れている。
「はぁ、ED設定ってのも楽じゃないなー」
 ――実は誠は、先日の日野真紀子との一件以来、EDになった……という設定にしている。あの日にがっつり犯したのだから、もちろんそんなわけはない。しかし「愛しい彼女からの貴重な手コキ」に味をしめた誠は、ちょっとしたイタズラ心を起してしまったのだ。それが『やっぱりEDになった』設定。
 あの翌日「やべぇ、やっぱりEDになってるかも」と深刻な顔で言った時の彼女の顔といったら……今思い出しても、誠はニヤニヤが止まらない。実に性格が悪いことだが、心配されて小躍りしたい気分だったのだ。
 たとえ同情だろうが、彼女の確かな愛情を感じられるのなら、誠は幸せだった。
「だけど抱けないのは、やっぱしんどいな」
 誠は驚くほど、彼女への性欲が強い。やろうと思えば一晩で七回以上いける。
 そんな誠が辿りついた究極の手段が――朝のトイレ。片づいていない仕事があると言っては早めに出て、この個室にこもってオナニーに耽るのが、最近の日課だった。しかもオカズが彼女を犯した時の動画や写真とくれば……もう教師どころか人としても最悪な部類だろう。
 もっとも誠は、そんな善悪を気にするような性質ではない。基本的に愛しい彼女に接する時以外は、周囲のことなどどうでもいいのだ。ただ、天才的なまでに普通の人間を装うのが上手いから、そうと見えないだけで。
「はっ、はぁ、はぁ、やっばい、もう先走りでそー」
 出かける間際の心配そうな顔を思い出し、胸がキュンとする。ペニスはギュンとする。
 その硬くなったものを握り、もう片方の手でスマホを操作する。画面で再生される彼女の媚態を凝視しながら、ごしごしと勢いよくしごきあげた。
「あっ、あぁ、あー……かわいい、かわいい。んっ、お前は宇宙一かわいいよ。はっ、あっ、くっ……、はあ、はあ、この時のお前のマンコ、めちゃくちゃ狭くてっ……ぁあ、引き抜く度にマン肉がめくりあがっちゃって……くくく、すっげぇエロかったんだよなぁ。はぁっ、あっ、誤解するなよ? 今の俺のサイズに馴染んじゃったエロマンコも、ちょう、可愛いからぁ」
 言っていると膣内の感触がよりリアルに想像できて、先走りの量が増す。
 ちゅくちゅくという淫猥な音と、誠の荒い呼吸音が、狭い個室内に反響していた。
 ねっとりとした掌でしごくと、もっと気持ちがよくて、一気に射精の欲求が高まる。
 精液が尿道をのぼってくるのを感じ、ゾクゾクと全身が震えた。
「あっ、ああっ、も……、イクッ! イクッ! はぁ、はぁ、好きだっ! 好きっ! 愛して……るっ!」
 最後の一突きといわんばかりに、限界まで張りつめたペニスを強くこする。
 硬い先端から勢いよく白濁の液が飛びだし、個室の扉をびちゃりと濡らした。
「くっ! ぅっ……はぁ、はぁ、あぁ……、っ……はぁ」
 あまりの勢いのよさにスマホのほうにまで精子が飛び散っていた。
 絶頂後の余韻で画面をぼうっと見やれば、彼女も丁度イッたところだった。しかも垂れた位置までバッチリで、誠の精液が画面の中の彼女股間の部分にかかっている。
 画面越しにも彼女を汚せたようで、美味な肉を平らげた獣のごとく舌なめずりをした。
「あー、くそ、早くアイツのとろとろマンコにぶちこみてぇ。ED治ったってことにしたら、男子トイレで犯すっていうのもいいよな」
 常備しているウェットティッシュで丁寧にスマホを拭きながら呟く。
 まったくもって、彼女にとっては迷惑極まりない野望だ。
 誠は扉のものまで全部拭き終わると、スッキリした面持ちで立ちあがった。
「さてと、今日も仕事頑張るかー」
 そう言った誠には、もう先ほどの淫靡な雰囲気はない。
 誰もが知る「爽やかな山那先生」の顔をして、トイレを出る。
 昼休みに彼女を呼びだすのが、楽しみでならなかった。

 ……のだが、邪な計画を妨害するように、面倒なことが続いた。他の教師たちからの頼まれごとや、男子生徒同士のいさかいだ。そのせいで休憩がとれず、誠は昼休みまで腰を落ちつけられない始末だった。
 もう我慢できない。帰りまでに、もう一度彼女を思いながらオナニーするしかない――と思っていたところで、廊下の反対側から彼女が歩いてきた。
 どくりと心臓が高鳴る。
 物影に引っぱりこみたい衝動に突き動かされそうになる。
 だが、まだ誠の背後には生徒たちの気配があった。去っていく足音だったが、油断はできない。
 そう思っていたのだが、彼女の――まるでおあずけをされて欲情しているような――潤んだ目を見て、ざわりと全身の血が騒いだ。
 もしかしたら……いやほぼ間違いなく、誠の性欲に慣らされた彼女も、相当な欲求を抱えている。誠を目にしたことで、それが溢れ出てしまったのだだろう。
 しかし無自覚な彼女は、誠の視線に不思議そうに首を傾げる。
「先生?」
 愛する彼女限定で、誠の理性の糸は、濡れたティッシュよりも千切れやすい。例にもれず、ふつりと切れた。
「もう無理」
「え? ひゃっ!?」
 ぐいっと彼女の腕を掴んだ誠は、驚異的な身体能力をフル活用して、恐るべき速さで物影に引っ張りこむ。そして壁に押しつけると、貪る勢いでキスをした。息苦しさで彼女が顔を逸らそうとしても許さず、両側から顔を挟み、さらに奥まで舌をねじこんだ。
 じゅる、ぷちゅ、とキスにしては淫らすぎる音が立つと、掌で感じる頬がいっそう熱くなる。
 名残を惜しむように最後まで舌を舐めながら唇を離せば、彼女はすっかりとろけた顔で文句を言った。
「はぁ、はぁ、こんなところで、なに考えてるんですか」
「EDだから、せめてキスはしておこうかと」
「せんせいの、ばか」
 セックスの途中のような甘い声で言われたところで、誠の欲望を煽るだけだ。
 それでも誠は、なんとか踏みとどまった。
 しかしここが学び舎だからとか、そんなまともな思考からではない。単純に、まだまだ彼女に心配されたかっただけだ。
 誠は血の涙をのみこむ気分で喉を鳴らし、彼女から離れる。決してフル勃起しているなどと悟られてはいけない。今日ほど緩めのTシャツに感謝した日はなかった。
 ふう、と息を吐き、最後にもう一度だけ軽くキスをする。
「今のキスは、カレー味」
「先生が作ったお弁当のピラフじゃないですか」
「美味かったか?」
「……とっても」
 そう答えた彼女は、どこか不満そうに頬を膨らませた。彼女としては胃袋を掴まれている現状が悔しいのだろう。
 誠はそんなところも含めて可愛くてたまらず、手がわきわきと動いてしまった。このまま胸をわし掴んで、片脚を抱えあげて、即挿入して――なんて考えたところで、いけないけないと首を振る。
 今度こそ完全に距離をとり、全身全霊で煩悩を殺すと、くるりと体を反転させた。
「先生?」
「じゃあな。午後もしっかり勉強しろよ」
「……はい」
 心なしかガッカリしているようにも聞こえるから、もっとうずうずしてしまう。
 濡れたティッシュが渇いたティッシュになったくらいの理性を保ち、誠はせかせかと廊下を歩いていった。

 その後の体育の授業では、爽やかな笑顔を浮かべながら、彼女のショートパンツをはいた尻を見ていた。もちろんバレるような間抜けな真似はしないが、事実を知っている日野真紀子あたりが見れば、呆れ顔をしたことだろう。
 だがショートパンツをはいていれば誰の尻でもいいわけではない。愛しい彼女の尻だから、ムチッとした見た目や、腿との隙間が気になって仕方ないのだ。
 ……という言い訳をしたら、たぶん彼女は「その言い訳もいりません」と真顔で言っただろう。

 ――そんな邪な葛藤を繰り返した末の、放課後の職員室。
 誠の濡れティッシュ状態になった理性は悲鳴をあげていた。
 他の教師が全員帰った後なのをいいことに、自嘲の笑いをこぼす。
「うーん、俺、自覚してたよりも我慢できねぇんだな、はは」
 彼女が聞いていたら「今さらですか」と呆れそうな台詞だ。
 その時の表情まで想像してくつくつと笑っていると、にわかに雨音が聞こえ始めた。
 あっという間にグランドの地面の色が濃くなる。
「天気予報、外れたな」
 今日は快晴だということだったから、傘を持ってきていなかった。
 元から雨が嫌いなのもあって、つい舌打ちをしてしまう。
 なんとなく、ぼうっと灰色の空を見あげていると、遠くからパタパタという足音が聞こえてきた。
 この時間に何の用だと、面倒そうに入り口を見た誠だったが……。
「はぁ、はぁ、先生」
 なぜか肩で息をして、青い顔をしている彼女が現れた――という予想外の展開を前にして戸惑う。
「え、お前……なんで戻ってきたんだ?」
「だって、雨……」
「雨?」
 本気でなんのことかわからずに聞きかえす。
 すると彼女は、もごもごと口を動かした後、絞りだすような声で言った。
「先生、今は、えっと……ED、でしょ? ただでさえ自信なくして、あんなにうなだれてたのに……雨まで加わったら、なんていうか、ほら……その……どうにか、なっちゃいそうで……」
 つまり彼女は、誠を心配して、戻ってきてくれたのだ。
 そうわかった瞬間、鼻の奥がツンとした。泣く寸前だった。
 彼女の優しい心を利用したことを、心底申し訳なく思った。
「……俺が自殺でもすると思った?」
 震えそうになる声で問いかける。
 彼女は迷った素振りをみせてから、小さく頷いた。それから誠の様子を窺うようにして慎重に歩み寄ってきた。
「先生って、意外とあっさり死んじゃいそうだから」
「お前がいなければ、そうかもな。生きるのが面倒くさいと思ってた時期もあったし」
「あんなに皆に好かれて、何だってできるのに?」
「なんでもできるけど、どれにも執着がなかったんだ。……お前だけだよ、俺が執着したのは」
 言いながら彼女の手を引き、自分の膝の上に座るよう導く。
 誠が弱っていると思っているからか、彼女は抵抗することなく、横向きに座った。
 顔が近い。吐息が唇にかかる。
 そんないつもなら興奮している状況で、誠は不思議なほど落ちついていた。暖かな毛布にくるまれたような心地で、唇を重ねるだけのキスをした。
 直後に、彼女のほうからお返しのキスをされる。
「今日は積極的だな」
「せ、先生が死んだら、写真とか動画の隠し場所がわからなくなるから……だから……えっと、それでです」
「慰めてくれるなら、もう少し深いキスしてくれよ」
「……仕方ありませんね。動画を消してもらうためですよ」
「わかったわかった」
 薄く開いた誠の唇の隙間から、彼女の舌がおずおずと入ってくる。
 それを迎え、誠から舌を触れさせた。
 ゆっくりと丁寧に、根本から絡め、滑らかな表面をこすりあわせる。
 数分はそうして、飽きもせずにキスだけを続けていた。
 いつもなら勃起しているところだが、今はなぜか、ただ抱きしめていたいと思った。
「……このキスが、一番美味い。菓子でも食べたのか?」
「なにも食べてませんよ」
「じゃ、お前味だな」
「はは、なんですか、その味」
「俺を幸せにする味のことだよ」

 普段は嫌いな雨音が、子守唄に聞こえた夜だった。


<了>


800DL記念SS



※一部あえて誤用漢字を使っています
※体イク教師のページのSSを先にご覧になったほうが、お楽しみいただけます


『心がたつ』 作・雪華


 ここ数日の誠は、非常に苛立っていた。
 まず、天気が気にくわない。体育祭に向けて野外での練習が増えてきているというのに、それを妨害するしつこさで雨が降る。元から嫌いな天気が、さらに憎々しくなるというものだ。廊下の窓から空を見あげれば、コールタールを流しこんで固めたような色が広がっていた。
 それでも愛しい彼女がいれば、誠の心中は晴天になるのだが……昨日から、彼女が逃げまくっている。既に同棲をしている上に、どこからどう見ても熱々カップルな生活を送っていたのに、だ。触れれば手負いの猫のごとく毛を逆立て、警戒心100%で逃げていく。誠のセックス対策でのランニングが効果を発揮しているのか、その素早さたるや、運動オンチとは思えないほどだ。
 理由はわかっているが、こうも拒絶されると悲しくなる。
 溜息をつきかけたところで、グラウンドのほうから女生徒たちが手を振っているのが見えた。
「せんせー、また明日ー!」
 誠は身に馴染んだ「爽やかで良い人間」の顔をして、手を振り返す。その間も、考えているのは彼女のことだった。
「帰ったら、金たま空になるまで中出ししてやろうっと」
 実に爽やかに笑いながら、ぼそりと呟く。読唇術を会得している女子高生などなかなかいないし、この程度の音量なら雨音で紛れる。
 そうとは知らない女子生徒たちは、単純に挨拶を返されたことに喜んでいた。キャッキャと楽しそうに傘を寄せあいながら校門へと向かっていく。
「はぁ……、その前に、こっちを片しておかねぇとな」
 誠の機嫌が悪い原因、その三。――日野真紀子からの脅迫状を握りしめ、空き教室へと向かう。
「ったく、こりねぇガキだな。周りに転がってる男の相手をしてりゃあいいのに」
 日野真紀子は、絶世の美少女として有名だ。日野が上目遣いに「お願い」と言えば、従わない男などいなかっただろう。そう思わせるほどの美貌だ。
 もっとも誠にとっては、どうでもいいことの一つにすぎないのだが、今日ばかりはその美貌を活かして違う男を落としてほしいものだと願わずにはいられなかった。
「はーぁ、いい加減諦めてくんねぇかなぁ。ぶっ殺したくなるだろ」
 再びの重い溜息をついて手紙を広げる。
 そこには女子らしい丸みを帯びた字で「話したいことがあるので、放課後、一人で空き教室に来てください。来てくれないと死にます」と書いてあった。
 好きにしろと言いたいところだが、愛しい彼女の在学中に問題は起こしたくなかった。
 以前の自殺未遂は本人の素行の悪さもあって注目されなかったが、親が権力者でもある日野は別だ。校内で自殺としたとあれば、物好きな記者が集まってくるだろう。つくづく厄介な女だ。

 空き教室の前に着いた誠は、深呼吸で苛立ちを抑え、声をかける。
「おーい、日野ー。中にいるのか?」
「先生、やっぱり来てくれた」
 とりあえず生存が確認できて、ホッとする。日野が生きていて嬉しいのではなく、愛しい彼女に害が及ぶ可能性を一つ潰せて安堵したのだ。
「『来てくれた』じゃねぇよ。お前が来させたんだろ。で、用件ってなんだよ」
「先生が中に入ってからお話しします」
 日野にはもう半ば本性がバレている。だから誠も面倒臭さを隠さずに応えた。
「言っておくが、どんな脅迫されたって俺は――」
 言いながら室内に入った瞬間、死角から突然タックルされる。
 咄嗟に受け流そうとしたが、完全な不意打ちだったため、ふんばりがきかずに床に倒れる。
「くっ」
 そこにすさかず、大柄な男子生徒たち五人が襲いかかってきた。
「お前ら……!」
 不意打ち続き、しかも恐らくはラグビー部の精鋭六人に押さえられれば、さすがの誠もしのぎぎれない。座った状態で後ろ手にされ、棚の脚に手首を縛られた。
「はぁ、なんなんだ、一体」
 もう抵抗するのも面倒になって、苛立ちがまじった溜息をつく。
 すると動きが止まったのを見計らってか、部屋の奥から日野真紀子が出てきた。日野は屈強な男子生徒たちを見渡すと女王のごとく悠然と微笑み、腕を組んだ。
「貴方たち、協力してくれて有難う。お礼にまた、足でシてあげる」
「は、はい!」
 男子生徒たちは恍惚の表情で頷き、行儀のいい犬のように素早く退散していった。
 どこの女王様プレイだとツッコミたくなる。
 呆れすぎて真顔になっていた誠とは対照的に、日野は一呼吸ごとに息を荒くし、頬を紅潮させる。
「フラれた腹いせでもする気か?」
「そんなのするわけないじゃん。私、先生が好きなんだから」
「へぇ、お前は好きな男を縛りあげて興奮する変態だったんだな」
「ち、違うわよ! こうでもしないと先生、私のこと見てくれないから……」
 ぐ、と息を詰まらせた日野が拳を握りしめる。
 何か懐柔する手段はないかと考えていた誠だったが、その答えが出る前に、日野は決意した顔をあげてしまった。
 やけに気合いが入った面持ちで誠に歩み寄ると、何も言わず、おもむろに――誠のジャージのズボンの前を引きずり下ろした。
「な……」
 大概のことは無感動に受け流せる誠だったが、さすがに動揺せずにはいられなかった。
 今まで日野は、彼女に地味な嫌がらせこそしていたが、ここまで直接的な行動はしてこなかったのだ。
 予想外の展開に衝撃を受けている間に、日野は誠のものを取りだし、美少女らしからぬニヤリとした笑みを浮かべる。
「私、知ってるんだから。先生が欲望に弱いって」
「ああ、まあ、そうかもな。アイツが相手の時限定で」
 あくまでも日野を相手にしない誠の言い方で、日野の闘争心にますます火がついたようだった。眦をつり上げ、誠のものを痛いくらいに握りしめる。かと思えば、くすりと笑い、巧みな動きで萎れたペニスをしごき始めた。
「ふふ。見て知ってたけど……先生のって、勃起してない状態でも、すっごく大きい。私の中におさまりきるかな」
 興奮に息を荒げる日野。
 その様子を、誠は他人事のように見おろしていた。
「ん、あれ? おかしいな。なんで硬く――」
 やがて焦れた日野は顔をあげ、ようやく誠の冷ややかな視線に気づく。この時まで日野は、絶世の美少女である自分のテクニックにかかれば、落とせない男などいないと、本気で思っていたのだ。
 しかし今、日野を睥睨しているのは、なんの感情もない瞳だ。侮蔑の感情すら見受けられない。
 唇を震わせて動きを止めた日野に、誠は淡々とした声で言った。
「悪いけど、俺、お前レベルの女なんて見飽きてるんだ」
「え……」
「だから可愛いだけじゃ勃たねぇよ。それにお前、細すぎて俺の好みじゃねぇしな」
「な……、な……っ」
 侮辱されたと感じたのか、日野の顔が羞恥と憤慨でカァッと赤くなる。誠を見つめたまま、わなわなと震え、しまいには……ぼろりと大粒の涙をこぼした。
「っ、んで……なんで……、なんで、なんで、なんで!? 私のほうが、入学した時からずっと先生のこと好きだったのに! あんなオッパイしか取り柄がない女に負けるなんて納得いかない!」
「お前、俺がオッパイだけに惹かれたと思ってるのかよ」
「ねえ、私を見てよ、先生! シリコンでもなんでも入れて、巨乳になるから! 先生の好みの女の子になるから!」
「人の話聞いてねぇな」
 もはや疲れて、誠は溜息と共に肩を落とす。
 日野はしゃくりあげながら誠の上に乗り、すがるようにして涙をこぼし続けた。
「Gカップくらいになればいいの!?」
「だから、人の話を聞けって」
「聞いたら好きになってくれる?」
「何度も言うけどな、俺が好きなのはアイツなの。お前がZカップになろうが、一ミリも可能性はない。そもそもお前、なんでそんなに俺が好きなんだよ」
「……入学式の時、私、足をくじいて動けなくなってたじゃん」
「そうだっけ?」
「そうだよ。それで先生、私のこと抱きあげて保健室につれて行ってくれたの」
「あー……言われてみれば、そんなことがあったような」
「本当に忘れたの?」
「毎年、お前みたいなドジはいるんだよ。だから特に意識することじゃなくてな」
「っ、私は……あの時、すごく、すごく嬉しかった! こんなに顔も、声も、体も、全部自分の理想で! 王子さまみたいな人がいたんだって、胸がきゅーってなって!」
 そこまで一息で言いきると、日野は深く俯いてポツリと言った。
「……初恋、だったの。今までは好きになられるばっかりで、誰も好きになったことがなかったけど……先生だけは、私が自分から好きになったの。唯一、ほしいと思った人なの」
「唯一、ね……」
 日野の涙がTシャツに染みて、肌に張りついてくる。
 華奢な体は、最初の威勢を忘れるほど震えていた。
 その全身全霊であがき、悶える姿に、誠はかつての己を見た気がした。
「その唯一って気持ちだけは、理解できるぜ」
「え」
 緩慢な仕草で顔をあげた日野の目を、じっと見つめる。
「俺も唯一無二だと思える存在を見つけたんだ。そいつが死んだら、俺も死ぬくらい、大切な女。だから、ごめん。お前の気持ちには応えられない」
 今までのどの時よりも、日野に向き合って発せられた言葉だった。
 だからこそ日野の涙はもっと止まらなくなり、滂沱のごとく流れた。
「っ、先生、好き。好き……だったの……。大好きだったの……」
「うん。ごめんな」
「ぅくっ……ひっく、うぅー……」
 早く上からどいてもらうために頭でも撫でてやろうかと思ったが、そんなことができる状態ではなかった。
 仕方なく、日野が満足するまで泣かせるかと決めた時――。
「先生、こっちです! こっちから喧嘩する音が聞こえて……!」
 遠くから、教員を呼んでいるらしい焦った声が聞こえた。
 日野の顔が、目に見えて青くなる。震えながら必死で誠の縄を解こうとし始めた。どうやら全てを壊してでも誠を手に入れようとしていたわけではないらしい。こんな滅茶苦茶な真似をするくせに、誠には教員でいてほしいのだろう。
 誠はようやく教師らしい顔を思い出し、日野の耳元で囁いた。
「俺一人ならなんとでも言えるから、反対側の扉から外に出ろ」
「でも、それじゃあ先生だけが……」
「お前がここに残ってるほうが大問題だろ。いいから、早く」
「っ」
 号泣した後なのもあって、日野の動きにはいつものキレがなかった。前後不覚に近い状態でつまずきながら、反対側の扉から転がり出ていった。
 そうして日野の姿がすっかり見えなくなった後、もう一方の扉が控えめな音を立てて開いた。

「お前、演技下手だな。あんなんで誤魔化せるの、日野くらいだぞ」
 実は、誠は声を聞いた瞬間に、誰が来るのかわかった。だから落ちついていられたのだ。
 くつくつと喉奥で笑えば、彼女――誠の愛しい人が、僅かに頬を膨らませた。
「文句言わないでください。あのままが良かったんですか」
「いや、あんまりにもそそられなくてEDになるところだったから、助かったよ」
 誠にとってはただの軽口だったが、近寄ってきた彼女は、けっこう深刻なこととして受け止めてしまったらしい。少し離れたところで立ち止まると、腕を組んで床と誠の萎えたペニスを交互に見る。
 ここでガッツリ見られないのが彼女の可愛いところだと、誠は思う。もう数えきれないほど犯されているのに、未だに男性器を直視するのが恥ずかしいのだ。
 ちら、ちら、と見ながら、彼女はどこか落ちつかないふうに言った。
「本当に……その、EDに……?」
「なんだ、心配してくれてるのか?」
「だ、だって先生、普段はあんなに……えっと、すぐに反応するから、こんなのありえないじゃないですか」
「そうだな。女子高生に襲われて自尊心が傷つけられたから、心のチンコがバッキリ折れたのかも。このままじゃ、一生たたないかもな……」
 わざと語尾に苦笑を混ぜてみる。
 すると素直な彼女は、同情の眼差しを誠の下半身に向けた。
「一生……」
 彼女にとっての誠は、常に野獣モード。どんな些細なことでも「興奮した」と言って襲いかかってくる欲望の塊。その男が絶世の美女に手コキされても、うんともすんとも反応しなかったのだから、よほど深刻な事態なのだ……と結論づけたのだろう。短い間に、泣きそうな顔から迷いを露わにした目に、そして決意を感じさせるキリッとした眉になる。
 そのわかりやすい変化を見ているだけで、誠は勃起しそうだった。
(耐えろ、俺)
 当然ながら、EDなんて嘘だ。本当は彼女相手なら今でも秒で勃起できるのだ。
「でもお前が手コキしてくれたら、イメージが上書きできて、また勃つかも」
「手コ……!? う……、手で、するって意味ですよね」
「他に何があるんだよ」
「日野さんみたいに上手くできる自信ないです……」
 けっこうしっかり見てたんだな、とからかいたくなったが、ぐっと我慢する。
(あー、今すぐブチ込みてー)
 単純で可愛い。優しくて可愛い。嫌いな男でも見捨てられない慈悲深さが、可愛い。全てが可愛い。
 ――脳内が「可愛い」で埋め尽くされていく間、どうでもいい大学入試の問題を頭の中で解く。担当クラスの中にK大を目指す生徒がいて、そのために目にしたものだ。誠にとっては造作もない問題だったが、暗算だとわりと手間取る。この「わりと」という塩梅がちょうどいい。
「はぁ、情けねぇな。お前が目の前にいるっていうのに、このていたらくだ」
 せっかくの面白いプレイができる機会だ。簡単に終わらすわけにはいかない。少し大げさかと思いつつ、よりいっそう哀愁を漂わせる。
 すると彼女が、一つ鼻を鳴らして膝をつき、空中で丸めた手を上下させた。たぶんペニスをしごく前の予行演習だろう。
 こみあげる愛おしさを我慢するのが一苦労だった。ふふ、と笑いたいところを腹筋の力で抑えこむ。
 すると予行演習を終えた彼女が、大真面目な、けれど真っ赤な顔をして宣戦布告した。
「で、では……いきます」
「おう、よろしく頼む」
 彼女の手が触れた瞬間、脳内に興奮物質が溢れかえる。誠はどうでもいい問題集を解くスピードを速め、なんとかしのぎきった。
「大変ですね……、本当に硬くならない……」
 彼女がオロオロしながら、とりあえずといった感じで手を上下させる。
 正直、握り方も指の動かし方も、ぬるすぎた。
 それでも誠にとっては、即発射できるほどの刺激だ。こらえるために今度は海外の難題にとりかかる。
「やばいよな。これじゃあ本当に一生EDかも……。はぁ、こういうのって男の自信につながるから、マジ死にたい気分だよ……」
「そ、そんなの駄目です!」
 焦った彼女が少しだけ握る力を強める。
 ごしごしとしごく動きには技巧も何もなかったが、やはり誠にとっては感動ものの感触だ。なにより、愛しい彼女が必死になって手淫をしてくれているという光景が、最高。誠の体が自由であったなら「最高オブ最高」と言いながら天を仰いでいただろう。
「先生……」
 すっかり脳内では悦に浸っていた誠は、彼女のポツリとした呟きで首を傾げる。
「ん?」
「日野さんみたいな絶世の美少女、本当に見飽きてるんですか」
「顔がいいだけの女ならたくさんいるだろ」
 恐らくモテない男性が聞いたら殺したくなる発言を、無自覚にさらっとする。誠にとっては、心から大したことない話だったのだ。
 学生時代は、雑誌モデルだの、女優の卵だのが、後から後から寄ってきた。
 顔も体も最高レベルで――表面上は――優しい。しかも実家は大金持ちとくれば、モテないわけがない。
 誠はそんな状況を面倒に思っていたが、必要以上に拒絶すると世間から浮く。そうなるのは避けたかった。誠はいつだって、優秀なカメレオンでいたかったのだ。
 そのために誠は、呼吸をするように平然と嘘をつき、求められれば好きだと言って、彼女たちを相手にしてきた。
 あの時は後背位が好きだったなぁ、とぼんやり思い出す。バックだと無表情でいられるから楽だったのだ。ちなみにその時の経験の積み重ねで、誠は意識して勃起できるようになった。射精のタイミングも大体コントロールできる。さながらセクシー男優だ。
 しかし今はどちらかというと、正常位が好きだ。感じている彼女の顔が見られる。もちろん後背位も好きだが、以前とは目的が違う。後背位だと、より妊娠しやすいというから、それを考えると興奮するのだ。避妊したい彼女には悪いが、誠は一日でも早い妊娠を望んでいる。
(早く、俺のものにしたい。家族になりたい)
 ――などと考えだしてしまったから、彼女限定で欲望に弱いペニスは、むくりと頭をもたげてしまった。
「あ! だいぶ硬くなりましたよ!」
 嬉しそうにキラキラとした目で言われ、誠の興奮ゲージが振りきれそうになった。
 愛しい人が、自分のものを握って、嬉しそうにしている。――これほどの素晴らしい光景があるだろうか、いやない。と、いつもの調子で一人問答する。
(やべぇ。俺の彼女、可愛さが宇宙レベル)
 誠は小さく深呼吸をして、舌なめずりしたい衝動を堪える。
 長年培った演技力で、哀愁漂う顔を取り戻した。
「そうだな。でもこれ以上は難しそうだ。お前の中でしごいてくれたら、完全に勃ちそうなんだが……」
「中って……い、入れるってことですか?」
「ああ、ちょっとだけでいいんだ」
「じゃあコンドームを――」
「悪い。職員室にある鞄の中に置いてきちまった」
「それじゃあ、とってきますね」
「はは……、わかった。でも待ってる間に、また完全に萎えそう……」
「え!? うーん……」
 さすがの彼女も、挿入は迷うらしい。――それはそうだろう。なにせ今は、危険日。中出しされないために逃げていた彼女からしてみれば、大きな選択だ。誠の命令で避妊薬は持っていないから、相当な危機感を持っているに違いない。それでも彼女は顎に手を添え「うーんうーん」と真剣に悩み続けていた。
(嫌いな男が相手だったら、普通ここまで悩まないよな。放っておいたほうが、もう犯されなくて済むんだし)
 そうしないのだから、彼女の気持ちはほぼ確定しているようなものだ。それでも言えば彼女は逃げてしまうだろうから、誠はいつも我慢している。
 やがて唸りまくった彼女が、絞りだすような声で言った。
「……絶対に中出ししないでくださいね?」
「わかってるって」
「本当ですか?」
「ああ、本当」
「本当の本当に?」
「あー、もう萎えそうだー」
「っ、絶対ですからね!」
 鼻息荒く怒りながらも、彼女は真っ赤な顔をして下着を脱ぐ。そしていつもより少し柔らかいペニスを自分の膣口に宛がった。
「ちょっと待て。いつもより小さいとはいえ、慣らさないと――」
「今日体育の授業で汗かいたから平気です」
「汗と愛液は違うだろ」
「し、湿ってるから同じなんです!」
 いつもの彼女なら絶対に口にしないようなことが、自棄気味に吐き捨てられる。反して誠のものをおさめていく時の動きは、折れないようにという細心の注意を感じさせた。
「んっ、く……先生、痛くない?」
「全然」
 本当は濡れてない膣に入れるのは、多少の痛みを伴う。だが彼女が一生懸命騎乗位をしてくれていると思えば、痛みも快感に変換されるというものだ。先端の部分が隘路をわり開けば、強烈な摩擦で腰が甘く痺れる。
 やがて狭い入口が、張り出た亀頭の部分をのみこむ。そうなると、あとはずるずると根本まで押し入れるだけだ。
 彼女は若干痛そうに眉根を寄せながら、完全に腰を落としきった。
「ふ、はぁ……」
 彼女が大きく息を吐くと、膣内の緊張が和らぎ、絶妙な力加減で包みこまれる。昨日からしていなかったのもあって、誠の心中は最初からクライマックス状態だった。
 膣襞がざわめいて肉茎を擦ると、彼女も快感を得たのか、ふるりと震える。
 はぁはぁという一呼吸ごとに、彼女の中が潤んでいくのがわかった。
 気のせいか、いつもより濡れるのが早い。ぬるぬるとした襞が、充血を促すようにまとわりついてくる。
 これはまずい、と瞬時に思った。
 気持ちよすぎる。
 このままでは完勃ちしてしまう。
 焦った誠は、祖母にされた数々の虐待を思い返し、なんとか萎えさせようとした。しかし……
「はぁ、先生……きもちいい? ちょっとは興奮、できそうですか?」
 潤んだ目でこんなことを聞かれてしまえば、耐えられるわけがなかった。「我慢」の二文字は誠の辞書から消失し、ペニスはあっという間に充血しきった。
 完敗して、完勃ちした。
「きゃっ!?」
 彼女は突然膣内でペニスが大きくなったことに驚きつつ、バッと顔をあげて嬉しそうに言った。
「あ、たった! たちましたよ、先生!」
 彼女は無意識に下腹部に手をあて、誠のものを撫でるようにする。その姿が、また可愛くてたまらない。こんな可愛い生き物は世界中探したっていないだろうと真顔で思う。
「せ、先生!?」
「ん?」
「は、鼻血! 鼻血が出てます!」
「かの西条家当主も出したって言ってたから問題ない」
「なに言ってるんですか、やっぱり止めたほうが――」
 彼女が立ちあがりかけた瞬間、誠はありえないほど力が出た。そこそこ強く結ばれていたはずの縄から強引に手を抜き、彼女の腕をがしりと掴む。そして鎖から放たれた猛獣のごとき荒々しさで押し倒し、猛ったものを突きさした。ごん、と子宮口に当たる感覚が、たまらなく気持ちよくて涎が出る。
 串刺しにされた彼女は、悲鳴じみた声をあげて背を反らした。
「ひゃっ!? ああぁ――っ!」
「あぁ、勃った勃った。めっちゃ勃ったー」
 鼻血を垂らしたまま彼女の両脚を肩に担ぐ。それからみじろぐ隙すら与えず、短い間隔で腰を叩きつけた。パンパンという音に、彼女の濁音まじりの嬌声があわさって聞こえる。
「ひぎっ!? んぐっ、あうぅっ! ひんっ、こんな、いっきに深いのぉ、だ……めぇっ! こわれ……、ひぅっ、こわれちゃうっ」
「とか言いながら、マンコきゅんきゅんさせてんじゃねぇか。ほんとはお前も、朝から生ハメされたくてしょうがなかったくせに」
「そんなわけ、あぁっ、な……いぃっ」
「はぁ、はっ、はは、正直になれよ、危険日マンコ、こうやってガンガンほじくられると、気持ちよくてたまんねぇんだろ? 何回お前のこと犯したと思ってんだ。もうお前のことなら知り尽くしてる」
「あっ、ちがう、きもよくなんか、あぁん」
「へぇ? 俺は最高に気持ちいいぜ。早く中イキマンコに出したくて、あぁ、……がまん汁がめちゃくちゃ出てる気がする」
「んっ、あ……、えっ? だ、だめ! だめですよ、先生! 今日は中に出さないって――ひぃっ!」
「ほら、お前がお預けするから、金たまパンパンになってんだ。はあ、はあ、もう爆発寸前って感じ。あっ、はあ、くぅっ……あー、きっもちいぃ」
 腰を打ちつける度に、誠のたぷたぷとした陰囊が彼女の会陰を叩く。
 その感触に焦った彼女は、いやいやと首を振って誠の腕から逃れようとした。
 にやりとした誠は、さらに両脚を高く担ぎ、杭を打ちつけるようにして彼女のボルチオを押し潰す。
 瞬間、強い快感が彼女の理性を焼いたのだろう、一気に呂律がまわらなくなった。
「やっ、やらぁ。あっ、ぅー……あっ、ひぃ、ん! いっひゃ……、いっひゃう、のっ!」
「ああっ、俺も、いくっ」
「やぁっ! だめっ、せんせぇ、だ――、んんぅっ」
 素早く体勢を変えると彼女の両頬を包み、最後の抵抗をキスで封じる。
 そうして声も悲鳴も全部飲みこんで、子宮の形まで変わるほど最奥を押し潰した。
 彼女の全身が大きく痙攣し、泣き濡れていた瞳が一気にとろんとする。
 それを間近でじっくりと見つめながら、誠は達してひくつく膣内で思いきり射精した。
「ぅ、ぐ……おぉ」
 文字通り溜まっていたから、何度も何度もペニスが跳ねて熱を吐く。
 最後に腰を回して奥をぐちゃぐちゃとこねまわしてから、ゆっくりと動きを止めた。
 体力はあるはずなのに、ど、ど、と心臓が激しく脈打っている。
 わからせるように胸を合わせて抱きしめれば、彼女がふわりと微笑んだ気がした。たぶん激しく達したばかりで、自分がどんな顔になっているのかもわからないのだろう。
 その表情を見て、また鼓動が速くなる。
 さっきは上級テクニックでしごかれても萎えきっていたものが、今は達しても満足できなくて、硬いままだ。
「はー……俺、お前のこと、すっげぇ好きだわ」
 ぼやんとしていた彼女が、誠の呟きで我に返ったような顔になる。赤く染まった頬を膨らませ、眉間に皺を寄せた。
「……私は嫌いです。制服、先生の鼻血で汚れちゃったし」
「あ、わりぃ。帰ったら洗濯する」
「その前に中出ししたことを謝ってください」
「はは、ごめんごめん」
「誠意がない!」
「違うところで『誠意』を見せるから、許してくれよ」
「どうせ、できたら結婚するとか言うんでしょ」
「なんでわかったんだ」
「ふん、何度先生に犯されたと思ってるんですか。私だって、先生のことなら大体わかっちゃうんですからね」
「だよな。俺が放課後、どこに行くのかも知ってたみたいだし」
「そ、それは……なんとなく先生の様子が変だったから、気になって……。それで探してみたら、日野さんとあんなことになってて……」
「ふーん? 俺のこと気になって探して? 日野とのやりとりを見てたんだ?」
 ニヤニヤして聞きかえすと、彼女がもっと真っ赤になって眦を吊りあげた。
「きらい!」
「愛してる」

 彼女の「きらい」の言い方が可愛かったものだから、誠はこの後も二回ほど中出ししておいた。
 誠の唯一無二の存在は当然ながら怒っていたが、そうして怒ってもらえるのも幸せなことだなと、誠はひっそりと思ったのだった……。



<了>


600DL記念SS



※モブキャラ(実況の田中目線です)


『田中平治は驚愕する』 作・雪華


 学生時代の山那誠を知る者は、口を揃えて言う。嫌味なくらい何でもできるヤツだった、と。勉強していないというわりには、常に学年十位以内にいたし、運動能力は特にずば抜けていた。それだけでも羨ましいのに、顔は彫刻かとツッコミたくなるくらい整っている上に、バランスのとれた逞しい体はモデルよりも完璧だった。
 そんな男子を女子が放っておくはずがなく、高校時代は当然のようにファンクラブが存在し、バレンタインの日は誰かが率先して整列係りをやっていた。
 それほどまでにモテれば同性からやっかまれそうなものだが、誰に対しても気取らない誠は、男子とも仲が良かった。周囲には、常に誠を好きな男子と女子がいた。
 ――田中平治も、そんな取り巻きの内の一人だった。きっかけは、当時肥満だった平治が虐めの対象にされていたのを、誠が助けたことだった。
 なぜ助けたのか理由を聞いたら、誠は「無視して通れないだろ」と、実に爽やかに笑って答えた。
 以来、平治は誠のグループに入り、虐められることはなくなった。しかも誠に憧れて毎日運動していたら、隠れた才能が開花してスポーツが得意になった上に、スマートになった。平治はますます誠に心酔し、誠も平治を「へーちゃん」と呼んで親しくした。
 平治はいつしか、誠を一番理解しているのは自分だと思うようになった。支えられるのも、自分なのだと。
 だから同じ体育大学を受け、卒業後は同じ高校に就職までした。はたから見たら、異常なほど執着していたかもしれない。
 もちろん、その執着心を本人に打ち明けたことはない。気持ち悪がられるのは嫌だったし、友だちだけどファンでもあるような……妙なポジションを保っていたかったのだ。
 その自称「誠博士」の田中平治は、ある時ふと……気がついた。ずっと完璧なヒーローだと思っていた誠の中身が、実は氷のごとく冷たかったのだと。

 ――それは冷たい雨が降る、十月のことだった。放課後の二人きりになった職員室で、いつも通り日報を書いていた誠の背に向かって、平治は話しかけた。
「あの……まこっちゃんはさ、お見舞いとか、行く?」
 生徒がいない二人きりの時、平治たちは学生時代の愛称で呼びあっている。それは平治にとって心地よい空間を生み出す魔法の言葉のようだったが、この時はなぜか愛称で呼ぶのが躊躇われた。もしかしたら、数時間前に聞いた誠の舌打ちのせいだったのかもしれない。
 ……実はこの日の朝、誠にフラれた女生徒が、深夜の学校で自殺未遂をした。しかも場所が、見つけてくれと言わんばかりの職員室。
 誠が学園長の孫だったのと、誠は一切手を出していないと女生徒自身が言ったため、責任は免れたが……衝撃的な事件ではあった。女生徒が以前から問題行動を起こすと話題の生徒でなければ、いくら誠でも立場が危うかったかもしれない。
 平治は女生徒も心配だったが、誠のことも心配した。きっと優しい誠のことだから、胸を痛めているに違いないと疑いもしなかった。
 しかし誠を慰めにいった平治は、偶然聞いてしまったのだ。事件のあらましを聞いて学園長室から出てきた誠が、舌打ちをしていたのを……。ぼそりとした声で「めんどくせぇ女だな」とも、言っていた気がする。
 何かの聞き間違いだと思いたかった。しかし聞いていなかったフリで話しかけた瞬間、誠が少し気落ちしているような顔で振り向いて……ぞわりと、鳥肌が立った。
 少しも女生徒に同情していないのに、あたかも良い先生のように心配している誠の顔が、恐くてたまらなかったのだ。

 しかしそれでも、と回想を終えた平治は拳を握りしめる。自分を救ってくれたヒーローを、簡単に疑いたくなかった。
 平治がじっと返答を待っていると、誠は日誌を書く手を止め、背を向けたまま言った。 「俺が行くと、余計にあの子の傷を広げちゃうかもしれないだろ? だから今は、様子を見ることにしてるんだ」
「そ、そっか、そうだよな……」
 やはり、誠は優しい男だ。あれは聞き間違いだったのだと、平治はほっとした。
 その直後――
「なあ、へーちゃん。さっき出前とったから、一緒に飯食わないか?」
 誠が満面の笑顔で振りむいて、そう言った。
「え、ここで……?」
「だってへーちゃんも、まだしばらく仕事終わらないだろ?」
「あ、ああ、うん……」
 頷いてはみたが、平治は酷く戸惑っていた。
 命こそ助かったものの、今朝この場で人が死にそうだったのだ。大量の血が流れ、床が赤く染まっていた。
 ――なのに、そんな場所で、平気で食事ができるのか? しかも、自分が振ったことが原因だったのに? 女生徒には悪いが、普通は一刻も早く立ち去りたいものじゃないのか……?
 違和感が頭の中で渦を巻く。
 そうして平治が混乱している間に出前は届いてしまい、誠は実にうまそうにカツ丼を食べていた。
「……まこっちゃん、それ、美味い?」
「ああ、ちょっと味濃いけどな」
「……」
 不謹慎なのはわかっているが、以前何かの番組で見た、殺人現場で平気で飯を食べるサイコパスが脳裏をよぎった。
 そんな自分が嫌で、平治は頭を振る。
 女生徒は勝手に誠にのぼせあがって、勝手に自殺衝動に駆られたのだ。誠は教師という立場をふまえて、丁寧にお断りしただけ。何も悪くない。
 ――そう自分に言い聞かせ、平治は誠の横に椅子を寄せる。ゆっくりと座る間、足が震えそうだった。その後は動揺を知られたくなくて、とにかく必死でカツ丼を食べたように思う。なにしろ頭の中が真っ白だったから、味なんて憶えていなかったのだ。
「美味しかったな。今度は寿司でも頼もうぜ。俺、おごるからさ」
「……そうだな」

 その翌日から、平治はなんとなく誠と距離をとるようになった。嫌いになったわけではないし、変わらず感謝している。
 それでも……誠の爽やかな笑顔に本能的な恐れを感じてしまい、以前と同じように接することができなくなった。
 誠はというと、全く変わらない明るい態度で接してくる。距離をとられているのをわかっているだろうに、気にしていないようだった。いや、口では「最近付き合い悪いじゃねぇか。寂しいだろ」と言っていたが……目の奥が笑っていなかった。
 昔は気がつかなかった違和感を、もう見過ごせなくなってしまった。そのことが、平治は悲しくてたまらない。どんなに中身が化け物であっても、平治はまだ誠が好きだったから……。

 ある晴れた日、生徒たちと楽しそうにじゃれあっている誠を遠くから眺め、平治はぼそりと呟く。
「なあ、まこっちゃん。まこっちゃんの感情は、あの雨で全部流れちゃってたんだなぁ」
 高校時代、誠が昔の事件を話してくれたことがある。交通事故で両親が死んだ夜、酷く雨が降っていたから、今でも雨の日は好きになれないのだと……少し遠い目で話していた。
「あの事件のことを話せるくらいには、気を許してくれてたんだよな。だけど、その俺ですら……本当は、どうでもよかったんだろうな。まこっちゃんの目は、昔から誰も見ていなかったんだ……」
 誠が笑えば笑うほど、平治はなぜか無性に泣きたくてたまらなくなった。誠から遠く離れた木陰で、息を殺しながらハラハラと涙をこぼす。
「ごめんな。気がつかなくて……」
 濡れた顔を覆えば、遠くから生徒たちに呼びかけられた。
「ねー! へーちゃーん! なにしてんのー? 今日は一緒にバスケするって約束だったじゃーん!」
 以前うっかり愛称を聞かれてからは、生徒たちからも「へーちゃん」と呼ばれるようになってしまった。平治自身も不思議なのだが、なぜだか生徒たちからは好かれている。生徒たちいわく、困っている生徒を見捨てないから……らしい。元いじめられっ子の平治だからこそ、そういう教師になったのかもしれない。
「ああ、今行くよ!」

 誠に背を向けて走りだした平治は、切に願った。いつか誠の空っぽな心を満たす、誰かが現れてくれることを。そして同時に、諦めかけてもいた……。

 ――それから二年ほど後、体育祭の借り物競争で実況していた田中平治は驚愕する。
 少し困ったふうに笑う誠の目の中にあったのは……間違いなく、熱情だったのだ。


<了>